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「魔探偵ロキ」事件の記憶と 確執の真相



この作品は、月刊マンガ雑誌「ガンガン」で連載が開始され、のち「コミックブレイド」に移行され、タイトルも「魔探偵ロキ」から「魔探偵ロキ RAGNALOK(ラグナロク)」に変更されたマンガです。詳細なデータはウィキペイディアの該当ページ及びその他Web検索結果からお察しください。

タイトルからして「おっ、ロキ?!」と北欧ファンを惹き付けるものがあり、また連載が開始された当初は可愛い絵柄で人気もあったものですが、連載回数を重ねるにつれ話の方向は迷走、北欧神話とは全く異なる方向へと発展したのち雑誌移籍してよくわからないまま終わってしまった作品です。

なぜこの作品だけを取り上げているかというと、この作品の人気が高かった当時、まだアニメ・マンガのファンサイトというものがそれほど一般的ではなく、二次創作と原典の敷居も低かったことから、「北欧神話が元ネタなんだ。」と思ってしまった作品のファンが北欧神話サイト、コミュティに殺到し、混乱をきたしたという事情があるからなのです。

タイトルやキャラ設定は確かに北欧神話っぽかったのですが…

 この作品は北欧神話とは、全くと言ってよいほど関係がありませんでした。

神話の名前を借りただけで設定は全然違う作品は世の中にたくさんあります。(当時もありました)
しかし、読者層にあまり北欧神話が知られていなかったことと、作者が北欧神話ネタですと言った発言を本来の意味以上の範囲で受け取ってしまったことから(たぶん)、不幸にして、マンガの設定=本来の北欧神話の設定 だと勘違いする人が続出してしまったのが、そもそもの悲劇の始まりでした…。

そう、今にして思えば、不幸としか言い様がない出会いでした。
ティーンむけの月刊バラエティ雑誌の連載に深い知識など必要ないので、名前だけ借りた全然別物の作品でもオッケーだったんです。
ていうか、学ランを来て学校に通う日本人の少年に北欧神話の名前をつけて、「彼の正体は北欧神話の神様です。」と説明するようなマンガなんで、普通に考えれば北欧神話がそういうものじゃないことくらい分かりそうなもんなんですが、読者に小中学生が多かったのか、北欧神話に忠実であると思い込んでしまったらしい…。

別物だと分かってれば問題ないところ、マンガから北欧神話に興味を持った方が原典を読み、「何これ! 全然面白くない」「ロキが可愛くない」と非難しはじめ、北欧神話サイトの掲示板で大騒ぎしたり、とばっちりで元ネタのはずの北欧神話を批判し始めたあたりから雲行きが怪しくなり…。

当マンガのロキがロリータな外見をした美少年なのに対し、北欧神話のロキは、外見は美しいが悪意なく人を傷つけたり貶めたり(場合によっては殺してしまう)かなり残酷な神様なわけです。ですから、マンガの中の「ロキ」というキャラクターが好きな人は、北欧神話の神であるロキを嫌いになってしまったのです。悲しいことに、両方好きという人はあんまりいませんでした。

ここから、魔探偵ロキのファンと北欧神話のファンの、悲しい確執が始まります
もともとの北欧神話ファンは北欧神話のロキが好きで、神様の中でもロキは一番人気でした。
大してマンガ/アニメのほうもロキが人気キャラクターでしたが、そのロキは北欧神話とは相容れない別物。

また、アニメ/マンガのファンは、作品が原典に忠実であるという誤解を抱いていたこともあり、北欧神話を扱うサイトの掲示板に「このサイトはロキ様を馬鹿にしている!」とか、「マンガの中の設定ではこうなっているのに、北欧神話の話はなぜ違うことを書いているのか?」等の、びっくりするような書き込みが多数投稿されるような事態になったのです。

これは1つのサイトで起こったことではありません。当時から北欧神話を扱うサイトは少なかったので、検索上位に引っかかるところは、かなりの確率でこのマンガのとばっちりを食らったのではないでしょうか。
結果として、掲示板が荒れ、やむなく閉鎖せざるを得ないサイトなども出てきたわけです。
掲示板どころか、そもそもサイト自体を閉鎖してしまったところもあったくらいで、このマンガの存在は北欧神話サイトを根絶させるための妨害工作か、とも思われたくらいでした(笑)

当時あった北欧神話サイトの大半が既に閉鎖してしまいましたが、うちは数少ない現存するサイトの1つです。
かつては私も若かったので、押し寄せる魔ロキファンと大人気なくケンカになり、自分で自分の掲示板を荒らしたりもしていたわけですが(笑)、今になって思うと、あれもインターネット過渡期の一つの特殊な現象だったのかなぁ…、と。

現在ではマンガの人気が沈静化し、連載も終了してしまいましたので熱心なファンもさほど残っておらず、以前ほど活発な「マンガファン」と「神話ファン」の激突はなくなりましたが、一度発表された作品の影響というのは長く残るものです。
今ではたくさんの情報がウェブ上に溢れていますので、いまさら原典との違いをあげつらう必要もないかと思うのですが、この作品のおかげで広まってしまった「大きな誤解」を、いくつか書き出しておきます。

・「邪神」ロキ、という妙な肩書きが定着してしまった

ロキには神々のために働いた様々な功績があります。
ただしイタズラ心から様々なトラブルを起こしているため、その意味では善良な神ではありませんでした。

・「フレイヤはロキが好きだった」という全くの誤解が広まってしまった

逆です。むしろ激しく憎んでいます。双子の兄との情事をバラされたりしたので。

・ヘイムダルとロキの役割が神話とは真逆

マンガでとられるヘイムダルとロキの対決ですが、役割が全くの逆です。ロキは人間の味方などしません。
また、ロキがヘイムダルの目をえぐったとか、ヘイムダルに片目がないといった話は原典にはありません。
作者の誤解かオリジナルの設定(なんのために原典から変更したのかは不明)と思われます。

・「ヘイムダルは光の神」「ウトガルザ=ロキはロキと同一人物」という説が広まってしまった

そういった説もありますが、反論も多く在ります。マンガ上の設定としては問題ないでしょうがそのように書かれた原典があるわけではありません。


これらは今後も残り続けるだけでなく、マンガが出版される限り広まり続ける可能性があります。

一度世に出てしまった誤解は回収が難しいのです。今後も、「フレイは女ったらしである」といったイメージも、二次設定のものになります。(※主な原典である「詩のエッダ」での豊穣神フレイは、人目ぼれした乙女に自ら告白することが出来ず、召使を代理人にしたオクテです。)

ここをはじめ、北欧神話ファンサイトの掲示板で交わされた議論では、しばしば「マンガは二次創作なのだから、独自の設定を持つことは問題ないはずだ」と、いう意見が出ました。確かにその通りです。
しかしファンが集団荒らし状態になっているのを、同じ作品のファンの人ももうちょっと静止してくれても良かったんではないかとか。
うまく原典との折り合いをつけられるように誘導できなかった、各サイトの管理人側も問題があったのでしょうが、やっぱり、耐性のないところに、いきなりヤオイネタを掲示板に振られて、あの当時はどうすることもできなかったかなぁ…とか…。

そういう感じの苦い思い出の作品なのでした。

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