フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA

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第42章
Kahdesviidettä runo


 前の章で、準備運動も兼ねたリサイタルを終えたジジイはいよいよ、いま一番ノッてる売れっ子吟遊詩人として、ポホヨラの大地に踏み込みます。
 夢は武道館フル動員、全国ツアー開催、オリコン1位! …とかじゃなくて(笑)、サンポ奪回。


 カンテレを手に乗り込んだ勇者パーティーに、魔女ロウヒは何しに来たのか、と訊ねます。
 「わしらは、サンポを分け合うために来た。」
 「馬鹿なことをお言いでないよ。雷鳥を2つに分けることは不可能だし、栗鼠を3つに分けることなど出来はしない。お帰り、サンポの持ち主は私だよ。」
さすがラスボス…じゃなかった、魔女ロウヒ。言うこともヒネリが利いて格好いい。
 しかし、ワイナミョイネン、伝説のカンテレ(最強兵器)を手にしている今回は、強気です。
 「ならばサンポはわしらが貰って行こう。あれは、わしらのものじゃ!」
言うが早いか、ジジイはカンテレをかき鳴らします。ロウヒの手下たちが駆けつけますが、前回と同じく。音楽を聞くや否や、呪法にかかったように動けなくなり、気分が和み、戦うことが出来なくなります。
 うーん。さっすが吟遊詩人。
 やはしジジイの精神ポイントは相当高いのか…。

 さらに、用意周到なワイナミョイネンは、ポケットからアイテム「眠りの針」を取り出して、眠りこけた兵士たちの瞼を縫い付けてしまいます。
 おそるべし、ジジイ。
 今や村全体が深い深い眠りの中に落ち、多少のことでは眼を覚まさなくなりました。
 あとはやりたい放題。

 イルマリネンとレンミンカイネンを引き連れたジジイは、サンポの動いているポホヨラの岩山へと向かいます。幾重にも厳重に鍵をかけてしまいこまれていますが、金属で出来た鍵なら、鍛冶の匠・イルマリネンにお任せ。
 さらに、サンポを運び出す力仕事は、一番若いレンミンカイネンです。作業分担出来ちゃってますね。さすが勇者パーティー?

 ところが、ここに、ちょっとした誤算がありました。
 なんとサンポは、金属のくせして、地面に根っこを張っちゃってるんです。さすが魔法の道具だ。まるで「木」です。この辺りが、サンポとはいかなる道具であるかをナゾたらしめている記述なんですが、確かに、何なんだかよく分からん。
 レンミンカイネン1人ではひっこ抜けないので、彼らは、牛に縄付けて開拓の要領でサンポをひっこ抜き、ちゃっちゃと船に積み込んで、逃走を図ります。手際のよさとチームワークは、もはや勇者一行というか、盗賊一味ですな。^^;

 「さて…。盗んだはいいが、このサンポをどこへ運ぶね、ルパン?」
と、次元・イルマリネンが問います。(じゃあレンミンカイネンは五右衛門か?)
 「ふむ。霧深き岬の先がええかのぅ。そこならば、人の手も及ばんじゃろう。」
ルパン・ワイナミョイネンは船に指示を出します。
 「さぁ皆のもの! 舳先をふるさとへ向けるのじゃ。とっとと帰るぞーい!」
盗ったらとっとと逃げる逃げる。船はポホヨラが眠りについている間に、フルスピードでカレワラへと向かいます。

 面白くないのは、レンミンカイネン。
 せっかく巧く行っていい気分なのに、騒いじゃダメだとジジイに言われたからです。
 「ちぇっ、何だよ。オレだって祝いの歌のひとつも歌いたいのによぉ。」
もちろん、普通の人間が歌うだけなら大して害にはならないのですが、ここは歌が魔法の世界、カレワラです。魔力を持つ者が歌う歌は、力を持った呪歌にしかならないのです。

 もっとも、止めたからって聞くはずないのがレンミンカイネン。
 ついにガマンしきれなくなった彼は、ついに歌いだします。ヘタクソな、荒々しい歌を。…まぁ彼の魔法は、女性にしか効かないですからね。森の女主人とか…。もともと、あまり歌は上手じゃないんですよ。

 この時、まだ船は十分な距離を稼いでいませんでした。
 若者の荒々しい歌は、ワイナミョイネンの妙なる調べで眠っていたポホヨラの人々の耳に、目覚めの歌として届いてしまいます。
 人々は目覚め、大慌て。サンポが奪われていることに気付いて怒り狂った魔女ロウヒは、すぐさま追っ手を放ちます。
 「霧の乙女よ。奴らの船を足止めしな。妖魔イク・トゥルソ! お前も行くんだよ。あの男、ワイナミョイネンを海に突き落としてしまいな!」

 ゴゴゴゴ…。

 魔女パワー全開。彼女は髪を振り乱し、おどろおどろしく災いの呪文を唱えていきます。
 「おおウッコ、至高の神よ! 激しく嵐を起こせ。風を出し、波を起こせ! ワイナミョイネンを逃がさぬように!」
 さらに自ら姿を変え、翼あるものとなって海上の船めざして飛び立ちます。

 一方で、逃走するワイナミョイネンたちのほうも、追っ手のかかったことに気付いていました。
 にわかに行く手の霧が深くなり、なにやら只ならぬ気配が迫って来ています。
 「ちぃ。気付かれたか。ったく、お前のせいじゃぞ?! レンミンカイネン!」
 「す、すまねぇ」
 「こうなったからには、腹を据えるしか無いわい。ロウヒめ、何か仕掛けて来るに違いないわい」
霧のせいで船は立ち往生しています。ヘタに動けば船もろとも座礁。だが! これしきでやられるジジイではない。ビバ、じじい!

 すらりと抜いた一刀。気合い一発、刃で水を薙ぎ払えば、蜜が刃より滲み出し、霧は断ち切られて天へと昇る! これぞまさしく伝説の技、「霧払いの居合い」也!
 「うおお! すっげー…」
レンミンカイネンちょっとビックリ。
 「ふ…。また、つまらぬものを斬ってしまった(←コラ!)。さあ行くぞ皆のもの! とっとと退散じゃぁ」
 「アイサー!」
船は早速漕ぎ出そうとしますが、その時! 何かが水中より飛び出します。

 驚いたのは…その時、たまたまソレを目にしてしまったイルマリネンでした。
 「ひィやアア〜〜〜ア?!」
 (側にいた人たち)「びっくぅ?!」

 かの高名なる鍛冶の匠が上げた、驚くべき裏声の悲鳴。その甲高い女らしい? 叫び声に、船上の時は凍りつきました。
 「お、オバケだあああ!!」
真っ青になってバタバタ船室に駆け込んだ彼は、毛布ひっ被ってガタガタ震えています。
 「……。(いい年こいて、オバケ怖かったんだ。あの人。)」
意外な弱点が暴露されたところで、ワイナミョイネン、船の脇に飛び出してきた小さな妖怪を冷ややかに見つめます。
 「こやつはイク・トゥルソじゃな。」
おを、さすがはジジイ。知っていたようです。

 そりゃそうですよね。魔法を使う者は、相手のことを詳しく知っていないとダメです。イルマリネンは魔法使いではないから、知らなかったのでしょう。
 「ふ。この程度のチンケな刺客を放つとは、ロウヒめ、よほど手ごまが無いと見えるわ。」
余裕しゃくしゃくのジジイ、イク・トゥルソの頭をガッキと掴み、残酷な笑みととに詰問します。
 「おい、老人の子イク・トゥルソよ。お前は何をしにここへ来た。」
 「……。」
 「どうした、答えんか。何をしにここへ来た。」
 「…決まって、んだろ。あんたを…殺しに…。」
 「何と! ふぉふぉふぉ、愚かな!」
頭を握る手にギリギリと力が篭もってみたり。
 妖怪は、顔色一つ変えずに、こう言いました。
 「あんたがオレを波間に逃がすなら…、オレは二度と現れない…。」
―――それって、もしかして、命乞いですか。

 どーやら、あんましヤル気なかったようです、この妖怪。勝てないの分かってたっていうか。時間稼ぎだけ出来ればよかったらしい。
 「ふん。まぁわしとしても、お前のようなモン殺しても仕方がないわい。」
ジジイ、掴んでいた小さな妖怪を、ぽいっと海の中へ。

 けれど、この時、イク・トゥルソはその役目をすでに十分に果たしていたのでした。
 魔女ロウヒの次なる呪文、「大嵐」が発動し、彼らの船のもとへ届いていたからです。
 天から吹き付ける風、荒れ狂う波。船は揺れ、ジジイご自慢のあのカンテレが、波にさらわれ海の神アハトのものになってしまいます。
 「ああ! わ、わしの楽器が」
 「楽器じゃないだろう、そのうち俺たちの命も掻っ攫われちまうぞ!」
必死で柱にしがみつきながら、イルマリネンは怒鳴ります。
 「…くぅ、やべぇぞ。このまんまじゃ…。」
実は、イルマリネンは泳げないのです。
 求婚戦争の時も、陸路でポホヨラへ行ってますし。今回も、出発するまで陸がいい、陸がいいって言ってましたしね。ワイナミョイネンは海で生まれたので海に深く関係付けられた存在ですが、イルマリネンは陸に関係深い存在。性格だけじゃなく、特性も対照的な2人なのです。

 「も、もうダメだぁ〜。う、船酔い…うえええ(今回、散々なイルマリネン。)」
 「たわけ! 男が弱音を吐くでない。泣いたところで苦難から逃れることは出来ぬわ! 歌には歌で、魔法には魔法で対抗するのじゃ!」
ジジイは歌い、風に負けぬよう海に向かって叫びます。
 「海の神アハトよ、波を静めよ! ベッラモよ、船を守れ。風は天へと帰るが良い、雲のもとへと駆けて行け!」
自分のせいでこんなことになってしまったレンミンカイネンも、必死です。船が沈まないよう、波よけの板を船べりに打ちつけながら魔法をかけていきます。

 嵐の中、波と風にもまれるワイナミョイネン一行の運命は? そして、魔女ロウヒの追撃は…?
 サンポをめぐる戦いは、まだまだ続く!



{この章での名文句☆}

そこで鍛冶のイルマリネンは実にひどく驚いた、
彼の顔から赤みが失せた。
毛布を頭の上に被り、耳の上まで掲げた、…


そんなに怖かったのか、イルマリネンよ。
いい年こいたおじ様が本気で怯える姿はちょっとチャーミング。



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