
「ニーベルンゲンの歌」は、いくつかの史実を元に、ドイツから北欧を経て発展していった「ニーベルンゲン伝説」の一つです。
代表的な伝説のモチーフは、いわゆる北欧神話の原典である「詩のエッダ」の中に出揃っており、それを元に12世紀のドイツで宮廷風に語りなおされた叙事詩となります。
→各エピソードの相違表は
コチラ
「詩のエッダ」ではオーディンをはじめとする古き神々の時代の神話として扱われ、登場人物たちも神々との血縁関係が設定されていたり、神話的な力を持っていたりしましたが、「ニーベルンゲンの歌」はあくまで宮廷物語なので、神話的な設定は極力排除され、主人公ジーフリトも由緒正しく育ちのよい王子ということになっています。また、この物語が作られた時代のドイツは既にキリスト教圏だったため、人物の神話的な属性や、神々に与えられたアイテムなどが消失し、かわりに宮廷風のモチーフが多く練りこまれるようになりました。
しかしながら、登場人物はなおも古き神々に仕えた部族の価値観を受け継ぎ、血なまぐささや名誉を重んじる伝統などが、端々に残されています。
「ニーベルンゲンの歌」の原典は明確に前編と後編に分かれてはいませんが、慣例として、第19歌章以降を後半として区切るようになっており、邦訳(岩波文庫)についても慣例に従って前編・後編で出版されています。前編は壮麗で宮廷的、後編は血みどろの戦いによる熾烈なシーン、と、雰囲気が異なります。華麗なる貴人たちの暮らし振りから一転、裏切りと英雄の暗殺、復讐に燃える英雄の妻クリエムヒルトの罠、壮絶な戦いの果てに散ってゆく勇士たち…。
その流れは怒涛の河となり、目に浮かぶ光景は、壮大な映画を思わせる出来となっています。
邦訳が手に入りづらかったり、詩文の形態が最初はとっつきにくかったりしますが、ぜひ邦訳を通読してみることをオススメします。
読むポイントは、
単純な正義と悪の物語だとは思わないこと。
序盤に登場するジーフリトが「英雄」とは限りません。クリエムヒルトは「悲劇のヒロイン」では無いかもしれません。
卑劣と見えた者が最後には正義に変わるかもしれませんし、もしかすると、登場人物たちの誰もが間違っているか、誰もが正しいのかもしれません。善悪が入り混じり、それを超越した先に読み手だけの”答え”が存在します。
力強くも、人と人の戦いを歌い上げた、中世ドイツ最高の物語をお楽しみください。
【基本資料】
岩波文庫『ニーベルンゲンの歌』前編、後編 相良守峯 訳 1955初版
お手軽に手に入る完訳。資料によって、固有名詞は多少異なります。
(例 ウォルムス→ヴォルムズ、ウォルムズ)




