北欧神話−Nordiske Myter

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関西風味「レギンの歌」

黄金が呪われた理由<ワケ>


 「レギンの歌」…
 この物語は、「エッダ」の中でも半分近くを占めるシグルズ伝説のエピソードの1つ。シグルズの生い立ちについてはエピソードごとに設定が違っていますが、ここではシグムンド王とヒョルディースの間の息子として描かれます。シグムンド王は既に戦死しており、妻ヒョルディースはアールヴと再婚しています。そして義父アールヴのもとから養育のため小人レギンに預けられたシグルズが、レギンから思い出を聞くという形式で、この物語は始まります。

 レギンは自分の祖先について、次のように語って聞かせました。 
 それは、オーディン、ヘーニル、ロキの三人組が、滝にお出かけしたときのこと…

************

 魚の沢山いる、アンドヴァラフォルスの滝にやってきた三人の神様たち。
 ちなみに、何故やって来たのかは触れられていません。謎です。多分、ピクニックか何かです。

 その滝にはアンドヴァリという小人が、かます(魚の一種)に姿を変えて暮らしていました。そのため、滝は「アンドヴァリの滝(アンドヴァラフォルス)」と呼ばれているのでした。
 でも、アンドヴァリは用心深く、岩の間に隠れています。やって来た神様たちが出会ったのはアンドヴァリではなく、レギンの兄弟のオトでした。
 小人の一族、化けるの大好き。オトは魚をとるために、カワウソに化けていました。
 で、大きな鮭をとって、もう夢中になって目なんか瞑っちゃって食べてたわけですよ。神様たちがやって来るのも気づかずに。
 それを見つけた、いたづらロキさん。「おっ、なんかカワウソおるで! いてまえー」…おもいっきり石なんか投げちゃったりするもんだから。ああ。
 石は避けようともしないカワウソの急所にクリーンヒット。
 眉間に一発。オト死亡。
 神様たち「おー。うまいなーロキ」「おっきいカワウソ獲れたがなー」 …と、獲物の皮を剥いでしまいました。

 さて、そんなピクニックの神様たち。その晩は、滝のご近所にあるフレイズマルさん家に泊めてもらう事になりました。
 「そういや今日、大きなカワウソ獲りましてん。見て見てー、こんな立派な皮取れましたよー。」
自慢しぃの神様たち。
 でも、ああ、なんたること。
 フレイズマルさんは、オトさんのパパンだったのです。

                                     …アホですやん。

 息子を殺され、あまつさえ皮を剥がれたと知って、激しく怒り狂うフレイズマルさん。「お前ら生かして帰したらんわーーー!!!!」
 神様たち「あわわわ」
 こんなとき、全く頼りに成らないのがオーディン様のお・や・く・そ・く! フレイズマルさんは神々を捕らえ、息子の命の代償として、その皮を満たすだけの黄金を手に入れて来いと脅します。

 オーディン「なぁロキ頼む。このままじゃワシら殺されてまうわ」
 ヘーニル「お前いちばん足速いし。行って来い。間違っても見捨てて逃げるなよ、逃げたら呪う」
 ロキ「ってそんな直ぐ黄金あるかい!」
 オーディン「いけるいける。ラーンとこ行って、ワシからの使いじゃ言うて網借りてな。…(以下略)」

と、いうわけで、オーディンとヘーニルを残し、身代金を手に入れるべくお使いに出たのは、いつもの使いっぱ、ロキさん。目指すは海神エーギルの妻、ラーンの館。 
 奥さんの女神様たちや同僚の神様たちに言えばいいようなもんなのに、怖いからか怒られるからか、なんとしても自分たちでカタをつけようとするのは神様たちのいつものパターン。っていうか元は、なんも考えずに石ぶん投げたり皮剥いだりした三人が悪いんで、たぶん奥さんにバレたら家庭内折檻が待っています。出来れば家族に内密に! 風通しの悪いアスガルドです。

 そて、ラーンは嵐のとき、My底引き網で船から落ちた人間たちを救い上げ、自らの館に運んでしまう恐ろしい女神様でした。その女神様に「すいません、商売道具のその網貸してください。」と頼むロキさん。

 ラーン「…何すんの?」
 ロキ「いや、小人捕まえるんで…。うちの社長(オーディン)が宜しく言うてました。お願いできまっか?」
 ラーン「オーディンはんが言うんやったら、ちっとだけな。貸したんわ。壊さんといてな」
 ロキ「へえ、おおきに!」

網を借りて滝に戻ってきたロキさんは、さっそく網をかけ、岩の間に隠れていたアンドヴァリを捕らえます。
そして、隠し持っている黄金を出せ! と迫りました。「出さへんかったら、いてまうでコルァ!」「がくがくぷるぷる」
神様に脅された可愛そうなアンドヴァリ。自分の持っててる全財産を仕方なく差し出すのですが、ひとつだけ、お気に入りの腕輪だけは、出さずに隠し持っていました。でもロキさんはそのことに気づき、最後に残ったその腕輪までも取り上げてしまいます。
 アンドヴァリ「ああっ、殺生な! それだけは…お、お代官様〜」
 ロキ「じゃかしぃわ!」
 アンドヴァリ「あぁれぇぇぇ」
アンドヴァリは命からがら岩の間に逃げ込みながら、ロキさんに呪いの言葉を投げつけました。

 「その黄金は二人の兄弟の死の原因となり、八人の王の不和の種になる。財産は誰の得にもならない!」

かくて呪われた黄金は、フレイズマルさんのもとへ。
すべての黄金を渡したロキさんは最後に言いました。「うちらの命と引き換えに、ごっつ大層なもん手に入れはったな! けどなぁ、この黄金は呪われとるねん。あんたと息子は、これのせいで死ぬやろな。それだけやないで。こいつは、これから生まれてくる八人の王の不幸にもなるんや」
 取引が成立し、身代金と引き換えに命の安全を保障してもらった後に言ってます。
 卑怯です(笑)

 フレイズマルさんは呪いを知って愕然。
 「なんやて。それを知っとったら、こんなもん受け取らんとキサマらの命のほう貰っとったわ! けど、受け取ってしもたもんはしょうない。こん呪われた黄金は、わしが生きとる限り他の誰にも渡さへん。おまえらの思うとおりにさせるか! さっさといね」
ロキさんたちは去ってしまいました。


 さて、運命づけられているとはいえ、よそに出したら八人の王の不和の種になるという呪われた黄金を、どこにも出したくないフレイズマルさん。残る二人の息子、ファーヴニルとレギンが黄金を分けてくれと言ってきますが、それは出来ないとつっぱねます。まぁね呪われてるしね。

 しかし財宝に目のくらんだファーヴニルは、夜中に父を殺してすべての黄金を奪ってしまいます。
 そしてファーヴニルは竜に化身し、誰にも黄金を渡さぬよう日夜見張り続けるのでした…。

****

 そして、このように語った後、レギンは「黄金を守っている竜こそ、わが兄ファーヴニルなのだ。奴を殺して、わしに父親の復讐をさせてくれまいか。」とシグルズに持ちかけるのです。レギンはシグルズに、竜を退治するための剣、グラムを与えます。しかしシグルズは父の復讐を遂げないうちはそんなことやってるヒマない、と、この話を突っぱねます。
 しかし、育ての親であるレギンの頼みを断り続けることは出来ず、父シグムンドの復讐を遂げた後、ファーヴニル退治に向うことになるのです。そして黄金を手に入れ、そのために命を落とすことになるのですが…。

 っていうかシグルズ、レギンの話をちゃんと聞いてたら、呪われた黄金を手にしたら自分(=王の息子なのでいずれ王になる)が死ぬって分かるじゃん。^^; 聞けよ。人の話。

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◎ポイント◎

黄金にかけられた呪いは、「フレイズマル親子二人の死」と「八人の王の不和」になると予言されています。
ここで言う「二人の死」とは、息子ファーヴニルに殺されたフレイズマルと、ファーヴニルの弟レギンがシグルズを唆して殺されるファーヴニルの二人です。

「八人の王」とは、ファーヴニルを殺して黄金を手に入れたシグルズ、そのシグルズを殺して黄金を受け継ぐグンナルヘグニゴトホルト(ゴトホルム)の三人、グンナルとヘグニを殺すアトリ、そしてアトリを殺害したグズルーンが三人目の夫との間にもうける、セルリエルプハムジルの三兄弟。※エルプだけは「異母兄弟」と呼ばれているため養子の可能性あり

ただし「エッダ」の中では、アトリがグンナルたちの持つ黄金目当てに戦を仕掛けるところまでは書かれているものの、その後、グスルーンが黄金を持って三度めの夫のもとに嫁いだという記述は無く、セルリ、エルプ、ハムジルの死に直接黄金の呪いが関わったとは言えません。



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