北欧神話−Nordiske Myter

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古今東西・北欧神話

ホルダの亜麻



 この本でも、ホルダ(フリッグ)は天候を司る女神であり、南ドイツの人は白い雲を「ホルダが布をさらしている」と言う、などと書いているが、大地との関係を示すような物語も載せている。それが、「亜麻の起原」と、いうものだ。
 亜麻は織物に使われる植物だ。ホルダは天の機織姫であると述べられていることから、天の植物を人間界にもたらしたことになるのだろうか。


 昔、あるところに羊飼いがいた。
 羊飼いは、放牧の途中で、素晴らしい鹿を見つけて追いかけ始める。そしい逃げる鹿を追いかけて(…人間が徒歩で追いつけるワケないのに)いるうちに、真っ白な氷河の上に出た。氷河の上には、ひとつの戸口が開いている。おそるおそる中に入ってみると、鍾乳石が連なり、宝玉がちりばめられ、いかにも不思議な感じがする。
 やがて部屋に出た。
 そこには、美しい乙女たちが並び、真ん中に、とても美しい女が座っていた。怯える羊飼いに、なぜここへ来たのかと女は問う。
 羊飼いはおそるおそる、鹿を追いかけてきたことを話す。
 すると女は、咎めるどころか優しい口調で、「せっかく来たのだから土産をやろう。ここにあるもののうち、何がいいか」と、言いだした。

 …女神様は太っ腹である。

 男は小心で善良な、お約束のような昔話の主人公である。宝石をゴッソリ、などということは思いもよらない。ただホルダの手にしている花が欲しい、と、言った。
 大抵の神話において、神様は、慎ましやかな人間を好むものである。
 男の返事を聞いてホルダはよろこび、この花束が萎まぬうちはお前も生きつづけられるであろう、と言って、花束をくれる。そして、花とともに、袋に入った種もくれた。それは、まだ地上では知られていない植物、すなわち亜麻の種だったのだ。
 女神は種の育て方を教え、男を外へ送り出す。
 外に出た途端、あたりにはいかづちが響き渡り、男は慌てて一目散に家へと逃げ帰った。


 さて、家に戻ってきた男を迎えた妻は、これまたお約束のような欲張りな女で、宝石を貰ってこなかった夫をなじる。(「金の魚」の童話みたいだ^^;)
 しかし男は女神を信じ、種を畑に撒き、言われたとうりに育てる。植物は順調に育ち、見知らぬ花が咲き、やがていっぱいの実をつけた。
 実がなると、ホルダは再び男の前に現れる。
 亜麻は、つむいで織れば織物となる。織物の作り方を教えてくれるのである。これは何という植物か、と問う男に、女神は「亜麻だ」と答えて消える。

 やがて男は、亜麻から作った美しい布地で成功を収め、財を築いた。

 時は流れる。
 ホルダにもらった花束はいつまでも美しく咲き続け、男はひ孫が生まれても、まだ元気に暮らしていた。だが、あるとき花束は、ついに枯れて萎んでしまった。
 男は自らの死を悟り、家を出て、再びあの氷河にやってくる。そこには、あの洞窟への入り口が、待ち受けるかのように口を開いていた。
 誘われるようにホルダの館へ入っていった男の、その後の行方は、杳として知れない。

 …なお、この「亜麻の起原とホルダ」の神話については、オランダにも別の物語があるという。
 ホルダという女神についての考察は、またいずれ、機会があれば。

 


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