アイスランド・サガ −ICELANDIC SAGA

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「神」は、どこまで神なのか?



 北欧神話に登場する神々は、ゲルマン民族がそうであったように、一つの系統ではなく幾つかの種族、もしくは部族から成り立っている。
 ひとつは、オーディンを祖とするアース神。そしてもうひとつが、ニョルズなどヴァン神という一族だ。アース神とヴァン神が戦争をして、のちに和解する。双方は人質を交換し、血を混ぜて人間をつくり、和解する。有力な神であるフレイやフレイヤは、このヴァン神の一族に属している。

 それだけではない。
 これら神々の一族の「敵」とされている巨人族、これも、厳密な意味では「敵」ではない。
 神々の父、オーディンは巨人族の出身だ。神話によれば、オーディンとその2人の弟たち、ヴィリとヴェーは巨人ブルの息子で、彼等からアース神が生まれたことになっている。
 さらに、有名なロキという神も、この巨人族の出身で、オーディンと義兄弟の契りを交わすことによって神の群れに加わったという。

 では、神と、神ではないものとの境い目はどこなのか。
 「エッダ」の中には、神ではないもの、神の従者である人間たちもたくさん出てくる。たとえば「ロキの口論」に登場するビュグヴィルなんかは、神というより召抱えられた人間かもしれない。
 加えて、前述した「ユグドラクルの根元ではしりまわるシカ」や、謎のリス、ニワトリなどの不可思議なアニマル’sも、とらえようによっては神だ。

 北欧神話について、文字として記録された資料は、ごく一部にすぎず、原型そのものではないかもしれない。神々は人間臭く貶められていて、人間たちは、より神に近く讃えて書かれている。そう感じられる。
 そのような表現が正しいのかどうかは分からないが、少なくとも、「エッダ」の書かれた時代はキリスト教時代で、神々を昔のままに称えて書き残すことは許されなかった。詩人たちは、神話を物語にすり替え、神々を嘲笑するふりをしながらしか、信仰の記憶を残すことを許されなかったのではないだろうか。

 結局のところ、神々のかつての信仰がいかなるものであったかが分からないのでは、結論は出ない、が…名前が残っている、ということは、神話の中でそれなりに活躍して、人々にも知られていたということだろう。
 決して、有名で主要な神々だけが神だったわけではない、と思う。場合によっては、「神ではない」ように書かれているものたちも、かつては神としてあがめられていたかもしれない。
 歴史を再生することはできず、すべては想像の中でしかない。しかし、だからこそ、簡単に結論は出したくない、そんな気もするのである。



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