辞書TOPへ】【コンテンツTOPへ】【2号館TOPへ

農民

bóndi (複数形 bndr)


この言葉は一般的に「農民」と訳されることが多いが、日本の概念で言う「農民」とも、封建社会で言う「農民」とも意味は異なる。サガの世界、つまり9世紀から11世紀ごろには「自由民」とほぼ同義。サガに描かれる時代の北欧人には戦士階級(戦う者)と農民(耕す者)の明確な区別はなく、基本的に全員が農民である。違いは、自分で土地を持つか小作人として地主から借りるか/持っている土地の大きさである。

農民(ボーンディ)は世帯主、農場の主人をさす言葉であって、農場で働く人々や農場経営者の家族を指す言葉ではない。土地持ちであることが独立者の重要な条件とされ、基本的にみなが農民であった時代には、この言葉は「家主」や「家長」の意味にもなり、フース(家)という言葉とあわせてフースボーンディとも呼ばれた。フースボーンディは英語で言う「ハズバンド」の語源となっている。

農民(ボーンディ)の中には、首領(ゴジ)も含まれる。これは、裕福な農民がゴジと名乗る権利を買えたことによる。

夏になればヴァイキング行に出る者も多かったが、それだけで生計をたてていくことは出来ないため、若い男性たちが国外に出ている間も、所有地に残った家族や親類が牧場や農場を経営していた。逆から言えば、農民(ボーンディ)が国外から財産を得るために一時的に成るものがヴァイキングであった。

13世紀ごろになると、階級社会が確立され、王、聖職者、商人などが区別されはじめて、ボーンディも現代で言う農民の概念に近くなる。


ちなみにアイスランンドとは異なり、ノルウェーでは、農民の中にも階級が明確に分かれていた。
階級社会の発生がアイスランドより早かったこともあり、職業の細分化が進んでいったようだ。

世襲自営農民 hauldr
自営農民 árborinnmaðr
下級農民 rekspegn

参考:「アイスランド・サガ 血讐の記号論」東海大学出版会
「ヴァイキングの経済学 略奪・贈与・交易」山川出版社


辞書TOPへ】【コンテンツTOPへ】【2号館TOPへ