中世騎士文学/イーヴェイン―Îwein

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「イーヴェイン」Îwein

Swer an rehte güete wendet sîn gemüete, dem volget saelde und êre
心を専らにして善きことを励むものは至福と名誉を得べし

Got gebe iu saelde und êre
神、御身に至福と名誉とを興へ給わんことを



 多くの詩人・文人たちの尊敬を集めたハルトマンには、自身の二つの顔に即した二系統の作品が存在する。この「イーヴェイン」ふくむ、アーサー王伝説に関係した騎士物語と、贖罪をテーマとした宗教的物語である。
 「イーヴェイン」(イーヴァイン)は、「エーレク」の続編で、直接つながりがある。
 ヴォルフラムの作品中にも言及されていることから、制作年代は1203年以前。1200年以後であるのは間違いないので、だいたい1200−1203年の間に書かれたものと絞り込むことが出来る。


++あらすじ++

 ある聖霊降臨祭の夕方、アルトゥース王の宮廷にて。ガーヴァイン(ガウェイン)、ケイイ(ケイ卿)など、仲間たちに囲まれて、カーログレアントという騎士が、かつて自分の体験したふしぎな物語を語りだす。
 それは、数年前、冒険を求めてブレスィリヤーン(ブレチリアン)という森を訪れた時のこと。
 森の奥で彼は、猛獣たちを従える野人のような男と出会う。男は獣の皮をまとってはいたが、人語を話し、意外に紳士的だった。
 決闘する相手を探している、というカーログレナントに、男は、三マイル先にある泉の様子を詳しく話す。泉の側には石があり、その石に水を注ぎかけて無事に戻ってこられるなら、凄いことだ、と。

 カーログレナントは、さっそく泉に向かい、泉の傍らにある石に水を注ぎかけた。すると、とつぜん激しい嵐が起こり、泉の周囲にいた小鳥たちは散らされ、森の木々は折れ、獣たちが倒れる。びっくりしていると、怒りに燃えた騎士が襲ってきた。その騎士は泉の主であり、、泉の平和を乱す者として、ログレナントを打ち懲らしめようとしたのだ。
 騎士は、自分の引き起こした嵐のせいでうろたえているカーログレアントを容赦なく馬から叩き落し、馬を連れ去ってしまった。カーログレナントは、ひとりとぼとぼと戻ってきたのだという。

 翌朝、この話を聞いたアルトゥース王は、円卓の騎士を率いてその冒険に挑もうと言い出す。しかし、その場に居合わせた主人公のイーヴェインは、既に、従兄弟(※)であるカーログレナントの恥は、自分が返したいと思っていた。アルトゥース王が騎士たちを連れて向かえば、泉の騎士と戦うのは、いちばん強いガーヴェイン卿になってしまうと思った彼は、誰も連れず、ひそかに泉のある森へと赴く。

※…詳しい続柄は不明なので、仮に「いとこ」とされている

 イーヴェインは、泉の主アスカローンと戦いに勝利。さらに、傷を負い逃げていくアスカローンを追いかけて、城門のところで打ち倒してしまう。だが、城主を打ち倒したイーヴェイン自身もまた、城の罠にかかって閉じ込められてしまった。

 このままでは、怒れるアスカローンの部下たちに殺されてしまう。その彼を救ったのは、城の侍女ルーネテだった。(ヴォルフラムの物語で、「主君に再婚を強いる侍女」として言及されている、あのルーネテである。)
 かつてアルトウースの王宮を訪れたとき、ただ一人、彼女に挨拶をしてくれた人物であるイーヴェインへの恩から、ルーネテは、姿を消す指輪をイーヴェインに与えて、城内に匿う。

 さて、怒りに燃えるアスカローンの部下たちが自分を探し回っている間に、アスカローンの遺体が運ばれてくる。それを見ていたイーヴェインは、自分が倒した城主の傍らに、その妻・美しきラウディーネが悲しみにくれているのを発見する。彼女の美しさに目を奪われ、駆け寄ろうとするイーヴェインだったが、ルーネテに止められる。彼は恋心に悩みつつ、夜まで隠れて過ごす。

 さて、侍女ルーネテは、イーヴェインが自分の主を想っていることを知ると、早速行動を起こす。
 いまや寡婦となった、城の女主人・ラウディーネに対し、魔の泉と国土を守っていくには一刻も早く強い騎士を得なければならない、と説得する。また、近いうちにアルトゥース王の軍勢が攻めてくることをイーヴェインから聞いていたため、今のうちにアルトゥース王に対抗する騎士を夫としなければならないと、夫の殺害者である(つまり前夫より強い)、イーヴェインとの結婚を勧める。
 最初は拒んでいたラウディーネだが、結局は侍女の言うとおり、イーヴェインを新たな国の主、自らの夫して、迎え入れることにする。

 かくて二人が結婚したあと、アルトゥースの一行が到着する。
 イーヴェインが泉の守護者となっていることを知らないケイイは、真っ先に挑んでいってあえなく落馬。(相変わらず、この人は不幸な役回りだ…。)
 最初から名を名乗れば転がらずにすむものを、ケイイが転がったあとでようやくイーヴェインは正体を明かした。そして、アルトゥース一行を客として招待する。

 宴のあと、別れに際しガーヴェインは、親友イーヴェインのために忠告をする。共通の友人であるエーレクのように、美しい妻におぼれて国政をないがしろにするようなことがあってはならない、いましばらく自分とともに武道に励まないか? と。
 イーヴェインはこの申し出を承諾し、妻には一年の期限をもらい、その間に戻らないときは離婚されることを覚悟する。そして、期限の間、アルトゥスの宮廷で武芸に励むことになる。しかし、華やかな騎士の生活はあまりに楽しく、いつのまにか、期限の一年は過ぎていた。
 …言いだしっぺのガウェインも、教えてやらなかったのか…。

 ラウディーネは怒り、侍女ルーネテはアルトゥースの宮廷に来て強制離婚を宣言する。それを聞いたイーヴェインは真っ青になり、半狂乱になって宮廷を飛び出して行ってしまった。
 泣。

 そのあとのイーヴェインの旅は、試練の旅である。
 半狂乱になって彷徨ううち、ぼろぼろの姿になった彼を救ったのは、ナーリゾーンの女領主だった。おりしも彼女の国は、アーリーエルス伯と戦争している。館に招待されたお礼にと、イーヴェインはアーリーエルス軍と戦い、華々しい勝利を収める。
 女領主は彼を引き止めたかったが、戦い終わったイーヴェインは去って言ってしまう。

 こうして、一度フラれた妻に振り向いてもらうための旅が始まる。
 途中、竜に襲われていた獅子を助け、お供に付き従えるようになったことから、彼は”Le Chevalier au lion”(クレティアンの詩のタイトル「獅子を伴える騎士」)と呼ばれるようになる。

 途中、イーヴェインは、自分が妻のもとを去ったせいで捕らえられ、死刑を宣告されているルーネテが囚われているのを見つける。
 彼女を告発したのは三人の騎士たち。罪状は、不誠実な騎士を女主人の夫して推挙し、不利益をもたらしたこと。責任をとって、彼女のために戦うことを誓うイーヴェイン。だが、その決闘に向かおうとする彼に助けを求める人々がいる。ガーヴェインの親戚たちだ。
 イーヴェインがいなくなっている間に、アルトゥースの宮廷では事件が起こっていた。ひとりの騎士がアルトゥースに挑戦し、王妃を奪って逃走した。ガーヴェインは、騎士を追って行方不明になっている。その間に、恐ろしい巨人がガーヴェインの姪である姫君を奪わんと攻めてきて、姫君の兄弟たちをみな、人質にしてしまったのだ。

 ルーネテの身は助けたい。だが親友ガーヴェインの親戚を見殺しにするわけにもいかない。
 悩んだすえに、イーヴェインは巨人と戦うことを決意する。かくて戦いは始まり、巨人に勝利すると、彼はすぐさま馬を駆ってルーネテを救いに向かう。

 すでに処刑が始まろうとしていたが、なんとか間に合った。
 告発者である騎士たちに挑戦し、獅子の助けを借りて、三人を相手に勝利するイーヴェイン。だが、彼はラウディーネの許しを得るまでは戻れないと思い、ルーネテにだけはそれを告げて、去っていく。


 いまや、「獅子を連れた騎士」の名声は高らかだったが、誰も、その本名を知らない。イーヴェインが己の名を恥として、口にしなかったからだ。
 ある時、黒茨伯の仲たがいしている二人の娘たちが、それぞれの選んだ騎士どうしに決闘をさせることになる。
 勝ったほうの騎士が仕える娘が、財産の相続権を得る。
 姉妹のうち、世俗に長けた姉はガーヴェインを選ぶが、妹は出遅れてしまい、誰も選べない。(相手がガーヴェインだと分かっているから、負けるのが分かっている勝負に出ようとは思わない)
 妹姫は、悩んだ挙句、噂に聞く「獅子を連れた騎士」に援助を依頼しようと思い立つ。

*** この間に、巨人と戦うイベントが入るが、物語の本筋とはあまり関係ないので、省く ***

 さて決闘の日となる。
 ガーヴェインとイーヴェインは、互いに相手を採らないままぶつかり合う。甲冑などフル装備で戦場に出てくるのだから、お互いの顔も見えていないのだ。だが決着は付かず、騎士たちは傷つく。
 見ていた人々は、これほど見事な戦いをする騎士の、どちらか一方が死なねばならないという運命を悲しむ。試合が中断され、アルトースは姉姫に、譲歩して戦いを取りやめさせるよう願うが、姉は決して折れようとしない。一方、妹姫は、自分の意地のために優れた騎士が命を落とすことを望まず、訴えを取り下げ、遺産などすべて姉に譲ると申し出る。
 しかし、アルトゥースは、その殊勝な妹姫が財産のすべてを失うことに同意できず、戦いは夕刻まで終わらなかった。

 さて夕方になり、戦いが中断された時、戦っていた二人は、ようやく互いが誰であったのかを知る。
 「私はガーヴェインだ。」「え、ガーヴェイン? マジで?」「そうだ」「あー、なんだ。僕はイーヴェインだ」「マジかよ!」
 遅いよキミタチ。

 相手が親友では、これ以上戦うこともできない。
 と、いうわけで騎士たちの間で和解がなされ、アルトゥース王は姉妹の間を取り持って、頑固な姉姫に財産を分譲させる裁きを下す。

 さて、このとき多くの人はまだ、噂のぬしである「獅子を連れた騎士」が、イーヴェインであることを知らない。
 一方で思い悩むラウディーネは、夫に絶縁をたたきつけた今、どうしたら領土を守れるだろうかと思い悩んでいる。そこへルーネテ、かの噂に名高い「獅子を連れた騎士」をお迎えしてはどうか、彼は、かつて不当に訴えられ、処刑されようとした自分をも救ってくれたのだから、と言葉たくみに女主人を説き伏せる。(もちろんルーネテは、それがイーヴェインであることを知っている)

 なるほどと思い、その騎士を呼びにゆかせるラウディーネ。現れたのはイーヴェイン。
 かくてイーヴェインは妻とヨリを戻し、ともに幸せに暮らすことが出来たのだった。


 …なお、終わり方は写本によって、まちまち。
 本を写した人々が、思い思いに「おしまいの言葉」を付け足したからである。そんなわけで、その後のルーネテの運命についても、人によって説が違う。

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 この物語のポイント

獅子と侍女の尽くしっぷり。(一言かい)
特に、なついてきた白獅子の可愛いの可愛くないのってアナタ。可愛いですよ…。

ちなみにイーヴェインは「マビノギオン」ではオウァインと呼ばれる。そっちでは、獅子のほかに鴉も連れており、なんだかアニマル系にモテモテなイメージがある。「良いハンターは、動物に好かれるものだ」、なんて…ね。


あらすじ元テキスト:「ハルトマン作品集」郁文堂(リンケ珠子訳)



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