中世騎士文学/トリスタン―Tristan

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トリスタン物語<Tristan>


トマ版の「トリスタン」は、全部で八つの写本に断片が残されており、
全部繋げて、ようやく、この一つの物語となる。
多くのトリスタン物語で失われている「結末」が、このトマ版には残されている。


以下、八つの写本ごとに途切れ途切れのあらすじ。

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物語は、トリスタンの追放部分から始まる。マルク王に逢瀬を見られたトリスタンは、国を後にする。

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イズーのもとを離れたトリスタンは、思い悩み、彼女は心変わりしてしまったのだろうと思う。イズーのことを愛してはいるが、憎しみさえ抱くようになる。やがて、残してきたイズーのことを忘れるため、彼は同じイズーの名を持つ美しい女性に求婚する。
だが結婚の夜、彼は改めて、王妃イズーのことを思い出す。結婚によって、本当に思うイズーと、妻としたイズー、二人を裏切ってしまうことになる。そこで彼は嘘をつき、今夜は気が染まぬといって、妻としたイズーを抱かずに眠るのだった。

一方、マルク王の妃であるイズーも、トリスタンのことを思い、噂に耳を済ませているが、人々は良い噂は王妃に聞かせまいとしている。
ある時、名だたる王たちのヒゲを毟り取りマントの飾りにするという巨人がアーサー王に挑戦し、一騎打ちで首を討ち取られる事件があったが、その少し前、トリスタンは、アーサーに挑戦した巨人の甥と戦っていた。巨人は倒されたが、トリスタンも深い傷を負う。
噂を聞いて、トリスタンの身を案ずるイズー。そのイズーに言い寄ろうとしているカリヤドは、トリスタンは死んでいないが失われた、ブルターニュ公の娘イズーと結婚した、と吹聴する。王妃イズーは怒り、カリヤドを追い出してしまう。

***
トリスタンは、かつて作られたイズーやブランガンの彫像の前で激しく恋の悩みを吐露する。かなり精神不安定の模様。
マルク王は、イズーが決して自分を愛さないことを知り、悩んでいる。
王妃イズーは、トリスタンを渇望しつつ夫のもとを離れられない。
また、トリスタンの妻となったイズーは、トリスタンに妻として抱いてもらえずに苦しんでいる。

だが、トリスタンの妻であるイズーは、いまだ乙女であることを誰にも言わずに隠していた。

ある時、イズーは、兄カエルダンとともに馬に乗っていた。馬が水をはね、イズーの股をぬらす。と、思わずイズーは大笑いし、「今までどの男が望んだよりも、トリスタンが望んだよりも水は…」と、口にしてしまう。(そのことでカエルダンは、トリスタンが妹と肉体的な夫婦になっていないことを知る)

サガからの再建では、これに続くのは「カエルダンに、彼の妹との結婚の真意を問われ、真実愛している王妃イズーのことを喋ってしまった」という出来事。カエルダンは、トリスタンの恋するという王妃と、その美しい侍女ブランガンの話を聞き、ぜひとも行って会いたいと思う。かくて二人はマルク王の国に渡る。

***
トリスタンとカエルダンはフランスに来ている。
王と家来たちが狩りに出向くところを、木の上に登って見ている。カエルダンはブランガンに興味を持ち、是非会って見たいと思っているが、それらしい者がなかなか見つからない。

サガからの再建では、このあとイズーとブランガンと同じ馬車で現れることになっている。
トリスタンはイズーと再会し大いに愛し合い、カエルダンもまた、ブランガンと恋仲になる。しかし、彼らの逢瀬はすぐに気づかれ、トリスタンとカエルダンは逃げ去る。


***
カエルダンが逃げたことでカリヤドに謗られたブランガンは、なんという臆病者を恋人としたのか、と激しく嘆き、イズーをなじる。
ブランガンは、かつてイズーとトリスタンに誤って媚薬を飲ませた侍女であり、責任をとって二人の逢瀬を助力し続けてきた女性でもある。王妃の秘密をすべて知る彼女は、王妃との仲たがいゆえに王のともに告げ口に走る。
だが、彼女は、自分の不幸はトリスタンのせいではないと思っている。そこでマルク王に言う。「イズーはもはやトリスタンを愛していない。かわりに、カリヤド伯に言い寄られ、心を許し、今やカリヤドこそが恋人になろうとしている」

マルク王はブランガンの言うとおりカリヤドを遠ざけ、ブランガンに王妃を見張らせる。なんとかして王妃に合いたいトリスタンはライ病患者のふりをして近づくが、ブランガンに見破られ、近づくことが出来ない。

イズーはブランガンに懇願し、ようやく二人は仲直りし、トリスタンはイズーと、カエルダンはブランガンと、ともにひと時の楽しみを味わう。
やがて帰国の時が来るが、別れは長くは続かない。二組のカップルの隠れた逢瀬はさらに続く。


物語はここで終りへと向けて急展開を見せる。
トリスタンとカエルダンは、ともに狩りに出かけるが、ブランシュ・ランドを過ぎたところで騎士と出会う。騎士の名は「小人のトリスタン」、恋人を攫われて、援助を求めていたのだった。
小人トリスタンの恋人を攫った相手はカステル・フェルの高慢者エストゥといい、兄弟は六人。二人のトリスタンは彼らと激しく戦い、全員を打ち倒すが、小人トリスタンは殺され、もう一人のトリスタンは毒槍で深い傷を負う。

国には毒を癒せる者はおらず、トリスタンの病状は悪化するばかり。かつて、若き日のトリスタンを癒してくれたアイルランドの姫である、王妃イズーならば毒を癒せる。だが、彼女がブルターニュに来ることは難しい。
死を覚悟したトリスタンは、忠実な家臣カエルダンに、イズーを迎えにいって欲しいと頼み、かつてイズーに貰った指輪を託す。
だが、その様子をトリスタンの妻である、もう一人のイズーが聞いていた。夫の胸に別の女性があることを知り、彼女は憎しみに囚われる 。

カエルダンはイギリスへ渡り、トリスタンの命が危ないことを告げる。思い悩んだすえに、イズーはカエルダンとともに海を渡る。しかし海は荒れ、なかなかトリスタンのもとへはたどり着けない。その間にもトリスタンは衰えていく。
トリスタンが指定した、ぎりぎり最後の日、船はようやく港へ到着する。このときカエルダンは、イズーが船に乗っているかどうかを帆の色で示した。白ならばイズーとともに戻ってきた、黒ならばイズーは来なかった。

帆の色は純白だったが、トリスタンの妻イズーは、嫉妬から「黒」と嘘をつく。トリスタンは嘆きのあまり、イズーの名を呼んで息絶える。船が港についたのはまさにその直後で、間に合わなかったことを知った王妃イズーは、恋人の亡骸を抱いてともに息絶える。


あらすじ元テキスト:フランス中世文学集1 ―信仰と愛と/新倉俊一 訳




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