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投稿時間:2002/11/18(Mon) 15:32
投稿者名:きよ
Eメール:kyamazak@ix.netcom.com
URL :http://home.ix.netcom.com/~kyamazak/index.html
タイトル:
フレイの勝利の剣(訂正)
 以前にもたぶん触れましたが、フレイの剣を《勝利の剣》というのは、『詩的エッダ』や『スノーリのエッダ』などにある表現ではなく、つまりは「《勝利の剣》を古ノルド語でどう綴るか?」等の質問は無意味であることに触れました。

 《勝利の剣》という名をつけたのは、スウェーデンの近代作家ヴィクトル・リュードベリです。じつは、Sejrssvaerdet [aeはくっついている] がスウェーデン語のつづりだなどと書いていたのですが、、これは間違いで、デンマーク語のつづりだとわかりました。
 「幻想図書館」BBSで、どう発音するのかと問われたのですが、
それを調べようとした折に判ったのです。デンマーク発音は「サイユールススヴェルデット」(?)
 ちなみに正しいスウェーデン語型は Segersva:rdet [a: はウムラウトのあるa]だと判明したのです。 発音は「セーゲルスヴァルデット」(?)でしょうか。

 TheTrothのサイトの人にも、リュードベリの説は、現在では信憑のないものとされているなんて言われましたけれど、その説すべてが正しくなくとしても、その試みた考証は捨てたもんじゃないと思いますけどね。
 

投稿時間:2002/11/18(Mon) 19:03
投稿者名:岡沢 秋
Eメール:
URL :
タイトル:
「スキールニルの歌」
 フレイの剣が出てくるのは、スキールニルの歌、ロキの口論、などですね。ちょうど今、「スキールニルの歌」を考えていたところなんです(笑)。
 パロディするにしても、何か最もらしい解釈をつけないことには話にならんなぁ、なんて…

>  《勝利の剣》という名をつけたのは、スウェーデンの近代作家ヴィクトル・リュードベリです。

 おお。彼でしたか。

>  「幻想図書館」BBSで、どう発音するのかと問われたのですが、
> それを調べようとした折に判ったのです。

 …なんつぅか、あそこの掲示板はどうして、つづりだとか、発音だとかの質問が多いんだろう…。教えてもらったあとにどうするのか知りたいや(笑)

 ところで。勝利の剣と呼ぶわりに、フレイの剣は実際の戦闘で使われてませんよね。「使えば絶対勝てる。」なんて言っているわりに、出てくるのは、スキールニルが女巨人を脅すときだけ。
 しかも、「しかるべき人物が持てば、一人でに飛んでって巨人の首をおとす」なんて大層な効能を持っているくせに、それを持つフレイは、トールのように「巨人殺し」では無い。何故か?

 実は本来の持ち主であるフレイ自身、この剣を使いこなせなかったんじゃないか?という推論はどうでしょう。
 そして、一般的に言うようにフレイが太陽光や風をつかさどる豊穣神だとしたら、豊穣神が剣なんか持ってること自体そもそもヘンじゃないのか、と。
 豊穣神なら、たとえ死んでも蘇るっていうのがセオリー。(オシリスやバアルのように)
 まして殺害の相手は炎の巨人スルト、植物は焼かれても焼け残った種から再生できるはずなのに、フレイは復活してきませんよね…?

 じゃあ、この「使えない剣」を持ったフレイは何モンなんだろう、剣を受け取ったスキールニルは何なんだろう?
 と、色々思案中。

 スキールニルは、自分を「アース神でもヴァン神でも妖精でもない」と言っていることから、人間か巨人では無いかという説があるんですが、ハーフというのもアリなんでしょうか。半人半神とか。

投稿時間:2002/11/19(Tue) 09:14
投稿者名:きよ
Eメール:kyamazak@ix.netcom.com
URL :http://home.ix.netcom.com/~kyamazak/index.html
タイトル:
Re: テュルフィング
>  実は本来の持ち主であるフレイ自身、この剣を使いこなせなかったんじゃないか?という推論はどうでしょう。
>  そして、一般的に言うようにフレイが太陽光や風をつかさどる豊穣神だとしたら、豊穣神が剣なんか持ってること自体そもそもヘンじゃないのか、と。
 この疑問はありますね。最終兵器ならば、なんで武神のテュールが持たないのかということです。フレイはすでにスキドブラドニルという折りたたみ式の船、グリンブルスティという黄金の猪をもらっているじゃないですか。それにくわえてさらにこの「自らをふるう剣」?

 アイテムの何も無いテュールがすごく寂しい。
 伝説の剣で、テュルヴィング/テュルフィング,というのがあります。例えば『ヘルヴォル(とヘイズレク王)のサガ』(members5.cool.ne.jp/~qautumn/CHRONICLE/ mythology/saga/08_tlfng.html)に登場しますが、もしやこれは?と思いました。つまり、私はてっきり、これが「テュールのフィンガー(指)」 (だって古アイスランド語では fingr は指ですもん)と思い込んでいたのです。ところが、クリストファー・トールキンによる同サガの注釈には、そういう解釈はひとこともありません。
[* 1) 西ゴート人の別称であるTervingi(=「森の住人?」の意)から派生した。2) tjo:rr =「剣、槍」と関係ある。3) torf 「芝」と関係あり地中に埋もれた剣を指す。などの説をあげています]

投稿時間:2002/11/19(Tue) 11:46
投稿者名:きよ
Eメール:kyamazak@ix.netcom.com
URL :http://home.ix.netcom.com/~kyamazak/index.html
タイトル:
スキールニル&スヴィプダグ&オズ
 <勝利の剣>についてのリュードベリ解釈をおさらいします。
 以前にも触れたとおり、彼の著の和訳はありませんが、大筋は、大修館書店マッケンジー著『北欧のロマン:ゲルマン神話』と同じです。

 「勝利の剣」は、リュードベリの再考的解釈では、すさまじい因縁の剣です。
 「エッダ」では、イヴァルディの息子がグングニールの穂先を鍛え、ブロックとシンドリの兄弟がミュルニールを鍛え、神々に献じたと歌われますが、さて、どちらの腕がすぐれているか、という判定では、後者に軍配があがります。
 これを不服とした前者(=鍛冶師ヴェールンド)が、雪辱をはらすため、誰の目から見てもあきらかにミュルニールにもまさる剣を鍛えたのだ、というのがリュードベリ氏の解釈です。
 鍛えた本人(ヴェールンド/シャツィ)は、羽衣をまとったところ/鷲になりすましたところを神々に殺されてしまいます。しかしこの最終兵器的な剣をふるって、あだうちする重責は、その甥っ子にふりかかります。
 リュードベリのいう、その甥っ子とはスヴィプダグです。そして彼が求婚する相手、メングロスとかいう乙女は、R氏によれば女神フレイヤ。
 もしこの甥っ子が「スヴィプダグの歌」の剣レヴァテインをふるって復讐をとげていたら、アース神族もただじゃ済まなかったのですけれど、カタキの一家の娘っ子に惚れてしまったんですから、穏便に済ませたいわけです。
 ゲルマン社会においては、家族の敵はいやでも討たなくてはならないしきたりであり、また、そうすることは、運勢の姉妹ノルニールの織りなす運命の糸で定められてもいるのですが、その運命の糸さえ断ち切ることができる唯一の武器が、これまた<勝利の剣>だとR氏は言うのです。
 スヴィプダグは、この<勝利の剣>を結納として収めてしまうわけです。フレイヤの父ニョルズが受け取らないのは、ご隠居の身であるご老体であるわけで、フレイがすでに家長なのでしょう。
 かりにフレイがこの<勝利の剣>を使いこなせないとすれば、そのほうがスヴィプダグは安心なわけです。理屈としては。ほかの奴、トールやチュールの手わたって、巨人族の身内を百人斬りなどにされてはたまったもんじゃありません。せっかく、アース神族と巨人族がこの縁組でめでたく手打ちになったのに、奴らだったら「眼つけやがった」程度のイチャモンでぶち壊しにしかねません。その点、フレイは姻戚のきずなで縛られていますから、義弟スヴィプダグの害となるような、めったなことには使えないことになります。
  
 スヴィプダグは、ヴェルンドの甥ということで、当初は一番の近親ですから、<勝利の剣>と仇討ちの責を継ぐ第一人者なわけです。しかし、ヴェルンドの忘れ形見のヴィドガが成人してくると、正統伝承者はそちらという展開になってきます。
 あと、R氏の解釈では、フレイヤの夫/愛人といわれるオズ/オズルもやはりスヴィプダグと同一人物です。
 さらには、スキルニールもまたスヴィプダグのあだ名であるというのがR説。ですから、

>  スキールニルは、自分を「アース神でもヴァン神でも妖精でもない」と言っていることから、人間か巨人では無いかという説があるんですが、ハーフというのもアリなんでしょうか。半人半神とか。

については、R説ではスヴィプダグはヴェルンドの甥っ子で巨人族。スキルニールはそのあだ名ということになってます。
 そのもっともたる根拠が、レヴァテイン「悪の枝/杖」(スヴィプダグが求める剣)と、ガンバンテイン「魔法の枝/杖」(スキルニールが巨人娘ゲルズにひらけかすフレイの剣をそう呼んでいる)の相似だというのです。
 (ただ「○○テイン」=「○○の枝/杖」というのは、一般に剣を指すケニングであって、固有剣名ではないかもしれませんね。)

投稿時間:2002/11/19(Tue) 21:27
投稿者名:岡沢 秋
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タイトル:
剣とスキールニル
>チュールの剣について
 チュールが剣を持っているシーンについては「エッダ」では出てこないですが、他の神話(出所不明)では、ありますよ。それを手にした者は王になれる、という伝説の剣で、なぜかアッティラ王の伝説とも繋がる、という。
http://www5b.biglobe.ne.jp/~moonover/2goukan/north-s/sinwa-5.htm

 キリスト教時代の影響が強い、とのことで通常は北欧神話考察に入れられないみたいなんですが、火の無いとこに煙は立たず、チュールの神殿には、本当に剣が奉納されていたんじゃないのか? とも思うのですが。
 
>リュードベリ解釈
 思うのですが、彼の解釈というのは、「過去に存在した物語の再生」ではなく、「未来に存在するだろう物語の再編成」ではないでしょうか。
 神話や伝説は、筋道の通らないバラバラの状態から発生して、語り継がれながら次第に筋道の通ったものへと変化していく。口伝えする様々な段階での人々が、自分なりの解釈を付け加えるからです。

 従がって、量が少ないとはいえ「エッダ」が書かれた時点より以前の物語が、「エッダ」より筋道の通った話だったかというと、そんなことはあるはずがない。

 リュードベリの説は、「エッダ」よりも解釈が進んだ時代のもの、つまり、現在の神話なのだと思います。
 彼は、きれいに纏めすぎたと思いますよ。ひとつひとつの解釈の根拠は曖昧だと思うし、一人の人間によって作られたものでない限り、神話や伝説は、そんなにきれいに説明のつく形では生まれないはずですから。

 …と、またリュードベリ説を蹴っちゃってるんですが^^;

 私はスキールニルは神の血を引く人間の英雄だったんじゃないかと思うんです。
 フレイにもらったものは「炎を越えられる馬」と「剣」でしょう。グラニとグラムの原型、または変形ではないんでしょうか?
 シグルズはこれをオーディンからもらいますが、この時のフレイは神々の玉座フリズスキャールヴに座っている。つまり「神の王」という意味ではどちらも同じ。
 スキールニルはフルイのために炎を越えて巨人族の娘に求婚しに行きますが、シグルズもまた、炎を越えて「他人のために」求婚に行きますよねぇ…。

 しかも、シグルズがシグルドリファからルーンを教わったように、スキールニルもルーンに関する知識を持っている。
 パターンが似ているなぁと思ったんです。

 少なくとも、巨人族の国へ一人で行けるくらいなんだから、戦う力は持っていたんでしょうね。 

投稿時間:2002/11/23(Sat) 13:59
投稿者名:きよ
Eメール:kyamazak@ix.netcom.com
URL :http://home.ix.netcom.com/~kyamazak/index.html
タイトル:
チュールの剣の考証
調べると長くなりました:

1) チュールの剣伝説が実存するかの賛否/信憑性]
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 ご紹介の、無限空間サイトで「レアストーリー:チュールの剣」(http://www5b.biglobe.ne.jp/~moonover/2goukan/north-s/sinwa-5.htm)として掲載されている挿話は、どうやら H.A. Guerber という作家が1929年に書いた "Tyr's Sword" という短編と(一字一句)同一です。
 オンライン・テキストとしては、へんな場所ですが「シルバー・サーファー」というスーパーヒーロー作品ののなかにそれがまるごととりこまれています。(http://marvelite.prohosting.com/surfer/fanfic/cpu/issue25/tiusday9.html)。

 Guerber という作者の名は、以前『Asinyur(女神たち)』という本の批評の記事
(http://ipc.paganearth.com/diaryarticles/books/asyniur.html)で出くわしていますが、その作品の中では、この作家が、北欧ネタをかなりの自由裁量でアレンジしているので、あんまり真に受けてはいけない、ということが書かれています。

 さて、このお話どおりの「チュールの剣の伝説」のまたは「ケル神(Cheru)の剣の伝説」らしきものは、ウェブ検索してもぜんぜん見つかりません。
H. P. Blavatsky 「Encyclopedic Theosophical Glossary」という辞典には載っているそうですが、典拠など書いていませんから訳には立ちません。 (www.theosociety.org/pasadena/etgloss/cha-chy.htm)。

2)ウィテリウス帝討ち取りの史実
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 しかしこの伝説の語るところが、記された史実とあきらかに違うということは言えます。八ヶ月天下の皇帝ウィテリウス Vitellius[英] や、それにとって代わったウェスパシアヌス Vespasian[英]についてなら、資料豊富です。(*注:こちらのサイトの「ヴェスバシアン」 は、表記ミスと思います「vesBasian」->「vesPasian」)。
 歴史に記されるこの皇帝の最後は《ゲモニアエの階段(Scalae Gemoniae)まで[*つまりはティベル川のたもとまで]連れてこられた皇帝ウィテリウスは、そこで無数の斬撃を受けて息絶える》というものです。これについては、スエトニウス『ローマ皇帝伝』の「ウィテイリウス伝」にもあるそうですし、タキトゥスもそう報じています。
ですがタキトゥスは、くだんの「ゲルマン人による殺害」の伝説のもととなったと思われる、次なるエピソードを記録しています。訳すと:
>「ローマが陥落するとウィテリウスは、いったん妻の家に遁れた。しかし、疑心暗鬼におちいった心ののなせる業か、なぜか宮殿にひきかえす。しかし辱たる隠れ場所[*清掃係室とも犬小屋ともいわれる]にいるところを、ユリウス・プラクドゥス Julius Placidus という大隊副隊長(cohort tribune)にひきずりだされた。後ろ手に縛られ、召し物もずたずたに裂かれ、胸くその悪くなる姿で、罵倒す者多く、涙す者のいない只中を連行されていく。と、その途中、ゲルマン軍の一兵卒が迎え立ちはだかった。その者の攻撃は、むしろウィテリウスが怒りの的だったのか、これ以上の恥辱にあわせるに忍びなかったのか、はたまた副隊長を襲ったのであったのか、それはあきらかではない。ともあれ、その者は、副隊長の耳を切り落とし、即座に刺し抜かれたのであった。」―タキトゥス『同時代史 (Historiae)』第3巻第12章84節(英訳:http://www.ourcivilisation.com/smartboard/shop/tacitusc/histries/chap12.htm

3)ローマ時代1世紀頃のゲルマン神
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 もし、なんらかの伝説が存在したとしたら、上のタキトゥスの史実が著しく曲げられて「ケル神(Cheru)の剣の伝説」などととして伝わったのではないかと思います。「ケル(Cheru)」というゲルマン神はなじみが薄いかもしれませんが、紀元一世紀頃、ローマ帝国が傭兵(外人部隊)としたり、あるいは討伐したりしたゲルマン部族は、ケルスキ族(Cherusci)といい、アルミニウス(ドイツ名ヘルマン・デア・チェルスケル)というケルスキの首長が、トイトブルクの森でローマの二個軍団を撃破したことはあまりにも有名です。

 ケル神とは、ケルスキ族が崇めた神であるととるのが筋がとおっています。これについてグリム著『チュートン神話』も、
>ケル=「剣」の意 - ケル神 (ケルスキ族) 
>≒ サクスの意=「剣」 - サクスノット神(サクソン族)
という興味深い論を展開しています。

4)アッティラの剣
----------------
 さて、後半のアッティラについては、リュードベリの執筆のなかでも呼んだ記憶があったのです
が、ヨルダネスが記述しています:

>[アティラは]気性からして、かねてより自信に満ちあふれたものであったが、それが、さらなる確信を増したのは、スキタイの歴代王にとってつねに神聖とされた《軍神マルスの剣》(gladis Martis)を発見したためである。史家プリスクゥスによれば、以下のような状況の下に発見されたそうだ:
>「ある羊飼が、自分の追う家畜の群れのなかで、びっこをひいた若牝牛がいるのに気がついた。診ても原因はわからない。そこで、血のしたたる後をたどっていいくと、そのうち、牛が草を食むとちゅう、あやまって踏んでしまったらしい剣につきあたった。それを地から掘り出すと、直ぐにアティラのもとへ持参した。
> アティラは献上品をいたく喜んだ。野心のつよい彼のことである。これで全世界の統治者に選ばれし者となった、この《マルスの剣》さえあれば、すべての戦で優位の優位は約束された、とそう思ったという。」
―ヨルダネス著『ゴート史(Getica)』35章 (羅英 http://www.harbornet.com/folks/theedrich/Goths/Goths2.htm)

 この同じ剣をイルディコ(ヒィルディコ)が使ったと言うのは推測の域を出ていないわけですし、彼女との初夜の晩でアッティラ
が死んだといって、それが彼女のしわざかどうかさえわかりません。

投稿時間:2002/11/23(Sat) 22:12
投稿者名:岡沢 秋
Eメール:
URL :
タイトル:
おー。なるほど
 誰も出典を知らなかったこの話、なんだ半分創作だったのか…(そんな気はしてたが←なら調べろ^^;)

 アッティラの剣については、もとになる伝承があったんですね。
 ヨルダネスだったのですか…アッティラ関連は、実はこの人以外の出所は無いのではないか、なんて思ったり。
 今までの、この時代の資料はすべて元を辿ると「ゴート史」だったような。(ベーオウルフもそうだし)

 ともあれ、どうも有難うございます。
 これでまた一歩、マニアックロードを極めることが出来ました。
 これ、くだんのページに付け足してもよいですか?

投稿時間:2002/11/24(Sun) 15:53
投稿者名:きよ
Eメール:kyamazak@ix.netcom.com
URL :http://home.ix.netcom.com/~kyamazak/index.html
タイトル:
チュール(ケル/ヘル/エオル神 サクスノット神)
>  これ、くだんのページに付け足してもよいですか?
どうぞ、どうぞ。ご自由に料理してくださって結構です。
 だけど、この辺は、ちょっと掘りさげてみると、雪ダルマ式に情報が発掘されてしまうものですね。グリムなんかにかかわっていると、一苦労ですけれど、オドロキの発見が多いからやめられない。(笑)。

1. サクスノット神
-----------------
前回の書き込みでは、

>ケル=「剣」の意 - ケル神 (ケルスキ族) 
>≒ サクスの意=「剣」 - サクスノット神(サクソン族)

を根拠として、タキトゥス『年代記』など、第1世紀のローマの第一資料に登場する正体謎の「チェルスキ族」というのは、じつはよく知られる「サクソン族」ではないかという説をグリムが展開していることに触れました。

 ここをまず、もう少し噛み砕いて説明したいと思います。
 まず、「サクス」が「剣」の意味であることはわりと知られています。フランク人の剣は「スクラムサクス」といいますし、ディートリヒ伝説に登場するエッケの剣もエッキザクスとかそういう名ですよね。
 サクスノット Seaxneat[Saxne&eacute;t,Saxneat]という神について資料は乏しいようです。
 じつは、19世紀に、本の綴じに使用されていたのを発見された古文書に、英国の東サクソン系の歴代王の家系の記録("de regibus orientalium seaxonum")が発見されましたが、これによれば、東サクソン国王の初代がGesecg、Seaxnotの子となっています。 (http://www.ldolphin.org/cooper/appen8.html 等)。
 ただ、この古文書そのものには、書かれていないようなのに、この古文書の情報にもとづいて作成したらしい家系譜には、サクスノットが、ウォーデンの子になってるんですよね。何が根拠なのか不明なんですが。
 さて、ヨーロッパ大陸で、どこにサクスノット神の記録が残っているかというと、これまたおかしな場所にあって、ゲルマン信仰の人たちを無理やりキリスト教に折伏させたとき、Abrenuntiatio と言って、いわば「踏み絵」のような儀式をおこなわせたときの記録なんだそうです。ゲルマンにとって北が神聖なる方角だったのですが、まず強制的に西を向かせてトール神(Thunar), ウォーデン神(Woden[W&ocirc;den])、サクスノット神(Saxnot[Saxn&ocirc;t])の三神への忠誠を捨てさせ、東を向かわせてキリスト教を受け入れさせた、とのことです。

2. ケル神と「剣」を意味するゲルマン語
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 さてケル神のほう(上の数式の左辺)ですが、グリムによると、ケル Cheru 神は、ヘル Heru 神の音声の変化だといいます。
「ヘル」(またそれに近い語は)ゲルマン系言語の各語に例があり(ゴート語 ha&iacute;rus, アングロサクソン語 heor 古サクソン heru 古ノルド hi&ouml;rr) いずれも「剣」を意味する語だそうです。

3. エオル神というルーン文字に示される神
---------------------------------------
 そして、チェル/ヘル神に音・意味合いが似ているものに、エオル(Eor)神がいると言います。
 グリムの解説によれば、ゲルマン軍神は、地域的にチュール(Tyr)神は、あるいはエオル神という名でも信仰されていたといいます。
(なんて言っても、そんな神、聞いたことない、とおっしゃられるのがオチですけれど。)

 この「エオル神」たる存在の痕跡について、グリムは次のように解説しています。
 まず、グリムは、軍神崇拝が、チュール信仰とエオル信仰の形態に、地域的に分かれている根拠として、曜日の名前に着眼していま
す。火曜日は、ローマでは「軍神マルスの日」ですが、バイエルン、チロルやオーストリアでは「火曜日」のことを「エオルの日」の系
統(Ertag, Iertag等)で呼んでおり、シュヴァーベンやスイスでは、「チュールの日」系統(Ziestag等)で呼んでいるので、かなり明確に地理的な線が引けるようです。

 次の証拠は、『アングロサクソンのルーン詩』です。その原典+現代英語訳は http://www.ragweedforge.com/rpaa.html にあります
が、その冒頭は、
 > フェオは、「富」のフェオ..、ウルは「原牛(アウロックス)」のウル..」云々
でして、最後の一節が、
>エアルは「穂(?)」のエアル。
>およそどの士(もののふ)にとっても、おぞましき。
>躯(むくろ)が、みるまにも冷えはじめ、
>黝(あおぐろ)い土のふところに横たえられるとき、
>栄華は凋落し、幸福は消滅し、
>盟約は違(たが)えられる。
 エアルというアングロサクソン語(古期英語)の基本的な定義は、現代英語の"ear of wheat"とまったくおんなじで、「(麦の)穂」という意味なのだそうです。ただし、それではこの詩では意味が通じないので、リンク先の訳では実際は「エアルは墓のエアル」と訳しています。グリムも、ここは「エアルは死神のエアル」というふうに解釈しています。そうすればこの詩説にはぴったりあうとグリムは言うのです。
 日本でも槍先のことを「穂」と言いうように、西洋でも「槍」と「穂」とは近いイメージがあります。「エオル」には「死神/破壊神/軍神」の意味があり、それは「槍穂/剣先」を神格化したものなのだ、という仮説を導こうとしているではないでしょうか。

 その結論に達しているのが Richard F. Burton (カーマスートラや千夜一夜の英訳者)で、その著書"The Book of the Sword"13章,
p.270脚注 (http://www.jrbooksonline.com/HTML-docs/Book_of_the_Sword.htm の注48)にそのことが書かれています。
 じっさい、チュール神のルーン文字「↑」(t にあたる)とエアルのルーン文字「v|v」(|棒の上にw)(ea にあたる)とはよく似ています。
 そこで Burton は、もともと槍をかたどるチュール神のルーン「↑」があったが、ゲルマンの武神信仰がしだいに槍ではなく剣を対象にするようになってから、チュール神のルーンをベースに、剣を模したエアルのルーン「v|v」が発明され、そちらが崇めるようになった、と考えました。

投稿時間:2002/11/25(Mon) 19:07
投稿者名:岡沢 秋
Eメール:
URL :
タイトル:
サクスノット?
> まず強制的に西を向かせてトール神(Thunar), ウォーデン神(Woden[W&ocirc;den])、サクスノット神(Saxnot[Saxn&ocirc;t])の三神への忠誠を捨てさせ、東を向かわせてキリスト教を受け入れさせた、とのことです。

 オーディン/トール/フレイではなく、サクスノットが入るんですか? 不思議ですね。
 …で、「ケル」も「サクス」も剣を意味する言葉なので、ケルスキ族とサクソン族は同じだろうとグリムが言った、と。
 では、ケル神とサクス神は同じだという説なんですね?


 チュールがエオルという名前で信仰されただろう、という話は、予想
されたとおり、全然知りません(笑)
 同じ概念の神を、わざわざ二つの名前で呼ぶ意味が無いような気がするんですよね…もしこの説が正しいとすると、何でチュールとエオルに分けたんでしょう。方言? 
 別々の名前で呼ばれたなら、同じ概念を神格化したものであっても別の神なのではないの? なんて思いますが。

 チュールのルーンとエオルのルーンが似ているというのも、実際、棒を組み合わせた簡素な文字なら大抵似ているものなので、まだ根拠に薄いような気がします。
 (え、グリムさんに失礼?…というか、疑ぐり深いな)

 北欧の信仰全般が、少ない資料から無理やり推測してるので、なんとなーく疑わしいような…それ言い出したら何もかも怪しいんですけど^^;

 それはそうと、もう一つ、ロキが子供を助ける話というのも同じコーナーにありまして、これも、出典が不明なんですよ。
 ロキが悪魔扱いされていることや、国がドイツになっていることから、童話か何かから引っ張ってきたんじゃないかと思うんですが。

投稿時間:2002/11/27(Wed) 10:44
投稿者名:きよ
Eメール:kyamazak@ix.netcom.com
URL :http://home.ix.netcom.com/~kyamazak/index.html
タイトル:
グリム本は、総じてこんな感じ
>  チュールがエオルという名前で信仰されただろう、という話は、予想
> されたとおり、全然知りません(笑)
>  同じ概念の神を、わざわざ二つの名前で呼ぶ意味が無いような気がするんですよね…もしこの説が正しいとすると、何でチュールとエオルに分けたんでしょう。方言? 
 そうですね。地域によって、方言はあるでしょうね。日本語だって、訛り言葉はずいぶん違うから。グリムの場合、アングロサクソン語ではこう、古期高地ドイツ語ではこう、ゴート語ではこう、という用例をよくだします。発音の差はけっこうありますね。
 くわえて、「チェルスキ族」というのは1世紀で、ゴート族などが活躍したよりも何百年か前、エッダが書き起こされたときから千年のへだたりがあります。
 ルーツが同じの神でも、地方や時間によって、名前だけでなく、神格についての考えそのものも分かれてきますが、あまりにも似ても似つかなくなってしまったら、「新種」の神格として分類するべきかは、ちとむずかしい神話の進化論ですね。

 グリムの「チュートン神話」という作品の感触についていえば、総じてこんな感じです。あらゆる言語で、聞きなじみの少ない言葉が飛び出てくる。「ロキの兜」という薬草があるとか、昔の人名で「ロキの日」という人がいた、なども、決定的証拠とは言いませんが、参考程度の根拠/形跡として列挙しています。

 チュール以外の神についても、いちいちこういう感じです。何々の地方では、○×という神の神殿があるが、これはじつはフレイでないか、とか、ラテン語の Saturn とロキは習合されているのではないか、とか。

 太古の剣崇拝について、よく挙げられるのが、スキタイ人は、剣を盛土(マウンド)に差して崇拝したというヘロドトスの記述です。
 このスキタイの風習がゲルマンにつながっているかどうかですが、まず先に挙げた、アッティラの剣「スキタイの歴代王が崇めた軍神の剣」がもし「チュールの剣」と解釈するなら、スキタイの剣神信仰は、そのままゲルマンの信仰であるあるわけです。
 また、スキタイの古墳(クルガン)は、サガに登場する墓霊(drow)が守る墳墓(howe) [*トールキンのいう barrow-wight] に似ていますし、クルガンの出土品からみても、大陸ケルト人やゲルマンの文化には、おそらくつながっていますよね。詳しくないですけど。

投稿時間:2002/11/27(Wed) 21:06
投稿者名:きよ
Eメール:kyamazak@ix.netcom.com
URL :http://home.ix.netcom.com/~kyamazak/index.html
タイトル:
Skyrmsli(ロキが子供を救う話)の源
Skyrmsliの話の根源をたどることができました。まず、「ロキが子供を救う物語」(http://www5b.biglobe.ne.jp/~moonover/2goukan/north-s/sinwa-3.htm)
としてご掲載の話は、ほぼ一字一句 H. A. Guerber の"Skrymsli and the Peasant's Child" (http://www.anglo-saxon.demon.co.uk/lyfja/ghp/goodloki.html)と同じです。いささか違うバージョンが http://www.pristowwweb.com/book10.html#loki にあります。(魚がヒラメじゃなくハドックになっている)。

 この"Skrymsli"の話の元ネタは何なのか?という質問が、とある北欧の掲示板の過去ログに残っていました。
 ある方によると、元ネタになっているのは、次の三つらしいです:
1) Skrymsli Ryma
2) Lokka Thaattur.
3) Odin ur Asg&oslash;rdum.

1)"Skrymsli Ryma" というのは、フェロー諸島のバラード(以前にもこの地域のシグルズのバラードのことがでましたよね)
です。このバラードの英訳は、Skr&iacute;msla (http://literature.school.dk/frame_FaeroesSkrimsla.htm) にあります。
 農夫が"チェス"の賭け事を "Skyrmsli という名の巨人"とするという部分だけ、このバラードからとられています。
 将棋と和訳、チェスと英訳されていますけれど、原文では tafl 「ターヴル」、つまりチェスがスカンジナビアに広まる以前の盤ゲームらしいです(参照:http://www.cog.jhu.edu/~slade/tafl.html)。
 ちなみに『ヴォルスンガ・サガ』13章ではレギンがシグルズにターヴル将棋を教えたとあり、14章がロキ、ヘニール、オディンの三人組の登場です。

 それから skr&iacute;msla 「スクリームスラ」というのは、じつは固有名詞ではなく、=「モンスター」を意味する、(かなり後世の)言葉だそうです。
 このバラードの筋書きは、怪物がターヴル将棋の盤をかかえて農夫のところにやってくる、(盤は象牙、駒は黄金)。
 おたがい、首をかけて一局まじえようじゃないかともちかけられます。農夫が根っからの将棋キチだったのか、邪悪の怪物に
なにか暗示の魔法をかけられたのか定かではありませんが、農夫は勝負を受けたくてしょうがなくなります。ですが、ちょうど妙案がひらめき、「勝利の手套」をはめてしまえ、そうすれば俺の勝ちはゆるがないぞ、と気がつきます。そんで結局、農夫は勝ってしまいます。巨人は、賭けで失った命をどうか買い戻させてくれ、望みのままの物を出すから、と頼みます。農夫は、まず、ビールやワインやブナの実の蜜酒や、その他思いのままのものが欲しい。それから、お城御殿を、俺の土地に建ててくれや、壁も葡萄畑も永久に持たなきゃ駄目だべや。その他いろいろ注文をつけるのですが、きわめつけは、お城の中では、本人がなりたいと思わん限り、けっして誰も病気にならないというんじゃなくちゃ駄目だ、でないと、「地獄に落ちる犬がごとく、おめえの首を切っちまうど」、などといいます。農夫の奥さんは、あまりの欲ばりぶりにあきれて、おまえさん、これはただじゃすまないよ、ああ、なんてこった、怪物はお前さんをころさずにはすまないだろう。と嘆きます。じっさい巨人は御殿を約束どおり建てるものの、農夫の腹部に腹いせパンチを一発おみまいするので、農夫は内臓がはみ出してしまいます。けれど、とりまきが農夫を魔法の御殿にひきずりいれると、傷はけろっと元通り。農夫は、「このおらっちよりも貧乏な王様は、十や十二人くらいはいるど」、と自慢して、もういいかげん舌が疲れたから話はしまいにしよう、と言ってバラードは終わります。

2) Lokka thaattur
これもフェロー諸島のバラードらしく、フェロー語とデンマーク訳が
http://www.forn-sed.no/folkesagn/folkesagn/folkeviser_kvad/lokakvaedi1.shtml
に載っています。
 フェロー語は、論外として、デンマーク語訳からオンライン辞典などひきひき、苦戦して意味調べてますが、だいたい同じ筋のようです。

 農夫 (bonden) と 巨人(j&aelig;tten)が何かの試合をおこない、巨人が勝ち、息子を要求する。
 巨人が隠せおおせることはできないぞ、と言うと、農夫は、なら私は「隠し役」のピンチヒッターに、オーディンを指名するからここに呼べ、というような運びのようです。巨人は「ふむふむそうか、オディンなら隠せおおせるとぬかすのだな、ならば..」と言うか言わないうちにオディンがドロンとテーブルの上にあらわれる。(んだと思います)。
 オーディンは、畑に息子を連れてって、「畑中の一穂(いっすい aks)となれよ、穂のなかの麦粒(bygkorn)となれよ」と命じるみたいです。
 けれど「心臓が角質(=ジフリットの皮膚と同じ物質)のような」巨人は、剣で(sv&aelig;rd)麦を薙ぎ切ろう(?)としますので、息子は恐ろしくなってしまい、オーディンによってもとの姿にかえされ、家に連れ戻されます。
 次はヘニールの番で、svan(白鳥)の頭の部分の羽根(fjer とありますが fjeder =羽根)に変えられますけれど、これも失敗するようで、ロキが呼ばれます。
 ロキは、なんやら風呂小屋をつくって、そこに広い窓をそなえつけ、鉄の棒杭(jernstang)を仕込んでおけとか、農夫に
命じるようです。この辺までしかおおよそ解読できてません。

投稿時間:2002/11/28(Thu) 00:07
投稿者名:岡沢 秋
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Re: Skyrmsli(ロキが子供を救う話)の源
 ありがとうございます。
 オンラインテキストがあったんですね。確かに全く同じものなんですが、その下のほうに、
 From "The Norsemen: Myths and Legends" by H.A. Guerber.
…と。私が見たのがこの本の和訳なんで、そりゃあ同じ内容だろうと妙に納得しました(笑)

>  ある方によると、元ネタになっているのは、次の三つらしいです:
> 1) Skrymsli Ryma
> 2) Lokka Thaattur.
> 3) Odin ur Asg?rdum.

 ということは、一つの物語として存在したわけではなく、3つの異なる物語をつな
げて作られた、いわば再話のようなものなんですね。
 フェロー諸島のバラードですか…。
   地図調べてみたんですが、フェロー諸島って、デンマーク領といいつつ実はブリテン島とアイスランドの中間くらいですよね。かなり微妙な位置で…ここの人たちというのは、北欧人だったんでしょうか。ノルウェーからアイスランドへ渡った人たちと同じように、この島の人たちもノルウェー方面から来たんだとすると、いわゆる「北欧神話」と同じ系列の伝承だったということになりますよね?

 フェロー島でも、やはりオーディンやロキといった神々が知られていたのでしょうか…。

>  それから skr?msla 「スクリームスラ」というのは、じつは固有名詞ではなく、=「モンスター」を意味する、(かなり後世の)言葉だそうです。

 がーん。人物名だと思っていました。
 妙な単語だなぁ、とは思っていたんですが…読み方も間違えてました^^;
 後世の言葉というと…どのくらいの時代ですか? 中世後期とか、そのくらいでしょうか。

 なんだか面白いことになってきました。
 この、不思議な伝説ばかりを集めた本の正体がなんとなく見えてきましたよ? 実はかなりマニアックなところからテキスト引っ張ってますね。

投稿時間:2002/11/28(Thu) 19:07
投稿者名:岡沢 秋
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探してみると。
・フェロー島について
 ノルウェーから移住した人々がいた、という話が「植民の書」に出ていました。アイスランドよりも古くから知られていた島だったんですね。どうりで古い時代の歌が残されているはずだ…。

・チュールの剣伝説について

  例の「聖剣伝説」−新紀元社に、テュルフィングの剣の話として載っていました。かなりショック;; テュルフィングは持ち主に死をもたらす剣じゃないよう…正しくは「抜かれるたびにひとりの男に死をもたらす」、つまり一撃必殺の剣ですっていうモノなのに。

ちなみに、このテュルフィングも勝利の剣と呼ばれていました。
それはそれで原典中にそれらしい言葉があるのでいいとは思うんだけど。

投稿時間:2002/11/29(Fri) 19:05
投稿者名:きよ
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タイトル:
テュルフィングの呪い
 テュルフィングの剣は、(バージョンにもよるようですが)初代のオーナーには死をもたらせている、とも伝わります。
 王が、婿のアルングリムに譲ったという伝承と、アルングリムは、王の娘も強奪し、奪った剣で王も殺したという伝承があるようです。

 たしかこのサガは、H写本(Hauksbo'k = 「」)とR写本(Royal-コペンハーゲン王立図書館蔵)の2種類の定本+紙(羊皮紙でなく植物繊維紙)の写本で完話を合成しているらしいのです。
 よってバージョンによって細かいところが異なっています。

 テュルフィングの剣は、ガルダリケ[ガルザリーキ]国(ロシア)の王、スヴァフルラーメが二人の小人(ドヴァーリンとドゥリン)を恐喝して、「柄は黄金。剣は鉄をもやすやすと断ち切れるもので、決して錆びつかず、そして持ち主が誰であろうと、その者に必ずや勝利をもたらす」剣を造ってまいれ、という注文つきで鍛えさせた剣ですが、小人たちは、これを納めるときに「この剣で三度まで勝ちを収めることができまするが、そのかわり抜刀せば必ず人命を奪い、新鮮な血を吸わせねば鞘に収められぬ、そして陛下にも最後には死をもたらします」との呪いをかけてしまいます。

 『ヘルヴォル(とヘイズレク王)のサガ』に出ているのですが、QAUTUM http://members5.cool.ne.jp/~qautumn/CHRONICLE/mythology/saga/08_tlfng.html という日本語サイトではこれを「テュルフィングの剣」と改題して掲載しています。

投稿時間:2002/11/29(Fri) 20:12
投稿者名:岡沢 秋
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Re: テュルフィングの呪い
原語が分からないので、日本語訳文からの解釈なのですが…小人のセリフは、こうなっています。

「剣は抜かれるたびに一人の男に死をもたらす。それで、三度まで悪い望みを果たすが、お前自身もそれによって死を受けるのだぞ」

これだと、「剣によって殺される」というよりは「剣を使って殺人を行うから、その報いを受けるのだ」と読めるんじゃないかとおもうんです。
当たり前っちゃ当たり前の忠告のような。
 三人というのも、その三人の具体的なところは書かれていなくて、「多くの戦いにこれを携えていった」とあるからには、おそらく三人以上は殺しているでしょう。三、というのは単におさまりが良かったから、という叙事詩ふうの言い回しだと解釈しました。


私が持っている本は、北欧神話と伝説(新潮社)です。
この本でのタイトルが「テュルフィングの剣」。ご紹介のサイトは、たぶん同じ本か、この本の改訂版(文庫)からの出典だと思います。
和訳テキストはGrongech(oにはななめ線)の「NordiskeMyterOgSagn」からの全訳だそうです。
このグレンベックさん、かなり味のある人なんですが、神話部分はともかくサガ部分については脚色してないから大丈夫だと思いたい^^;


>  たしかこのサガは、H写本(Hauksbo'k = 「」)とR写本(Royal-コペンハーゲン王立図書館蔵)の2種類の定本+紙(羊皮紙でなく植物繊維紙)の写本で完話を合成しているらしいのです。
>  よってバージョンによって細かいところが異なっています。

そうなんですか。どの本で読んでも、あまれり大差ないように感じたのですが…
今ふっと思ったんですが、「テュルフィング」のつづりは、どうなってるんでしょう。
もしかすると、「テュル」を「チュール」だと勘違いされている、という可能性はあるでしょうか?…

投稿時間:2002/11/30(Sat) 21:19
投稿者名:きよ
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タイトル:
ヘルヴォールとヘイズレク王サガ写本の異同
 剣名や人名が違ってたりするんですよね。

 以前、幻想図書館の掲示板に、「ミスティルテイン」とは「やどり木」のことだから剣名ではないのではないか、と書いたのですが、そのときミスティルテインの名を冠する剣は、『フロームンド・グリプスソンのサガ』(4章)と『ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ』(2章)にあるとご指摘を受けました。

 後者は、いままで話題にしてきた「テュルフィングの剣」と同じなわけですが、アイスランド語の電子テキストhttp://www.snerpa.is/net/forn/hervar.htm をいくらさがしても、見スティルテインという剣は出てきていません。

 そこで図書館で調べたら、クルストファー・トールキン訳は「紛失」(がーん!)で閲覧できず、1921年の古い Kershaw (Nora K. Chadwick)訳というので見たところ、そちらには、

"Angantyr had Tyrfing, and Saeming Mistletoe, Hervarth had Hrotti, and each of the others possessed a sword famous in single combat."

すなわち、こちらのバージョンでは、アルングリムの息子が全部で十二人いて、アンガンチュールはテュルフィング、セーミングはミスティルテイン、ヘルヴァルズはフロッティ(こいつの元祖はシグルズがファフニス竜から盗った剣ですね)をもち、残りもおのおの一対一の試合で使われた由緒ある剣をもっていたことになっています。

テュルフィングの意味ですが、ウェブ検索するとこれが「チュールの指」だと解すサイトはあります。しかし、学究の世界ではそうとらないようです。クリストファ・トールキンは、サガの"The Battle of the Goths and Huns"の箇所で剣名に よく似た Tyrfing という語が出てくるが、これは剣名ではなく部族の名だとか注釈しています。

 この"The Battle of the Goths and Huns"「ゴート族とフン族の戦い」というのはないかというと、サガの写本のなかに「フレードの歌」(Hl&ouml;&eth;skvi&eth;a)またの名を"Hunnenschlactlied"という歌がそっくり引用されているのです。これは、詩的エッダにこそ編まれないが、最古の英雄歌のひとつかとも思われる―らしいです。

 これはもうストーリーの終章ちかくですが、内容は:

ヘイズレク王がハルヴァーズ山(カルパチア山脈とおもわれる)で歿後、ただひとりの嫡出子アンガンチュール(同名で3代目の人物)が王の全財産と権力を相続します。その腹違いの兄弟フレード(フン族の姫シヴカ Sifka)は、アンガンチュールのところに行って、兵なり、牛なり、黄金なり、他の財産なり、すべてを半分に分けてよこせと要求します。アンガンチュールはこれを拒み、新王が Tyrfingr を分けることをようやく承諾するまで、数多くの死者を出さねばならなかった、とあります。
 ここで「分けたくなかった Tyrfingr 」というのは、剣のことではなく、Tervingi というゴート人の部族のことだというのが、学界ではより有力説なのだそうです。

投稿時間:2002/12/08(Sun) 01:23
投稿者名:岡沢 秋
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タイトル:
見つからず。
>  剣名や人名が違ってたりするんですよね。

 どうやら私の持ってる本は、区別なくくっつけたもののようで、違いはわかりませんでした。アルングリムの息子たちは12人いますが、テュルフィング以外の剣は出てきていません。
 人名も、有名じゃない人ははしょられているようでした。
 人数が少ない。

>  以前、幻想図書館の掲示板に、「ミスティルテイン」とは「やどり木」のことだから剣名ではないのではないか、と書いたのですが、そのときミスティルテインの名を冠する剣は、『フロームンド・グリプスソンのサガ』(4章)と『ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ』(2章)にあるとご指摘を受けました。

 ミストルテインは剣の名前じゃないと私も思っていました。日本のマンガや小説やゲームでは、剣の名前や槍の名前、時には矢の名前として使われているので、思いっきり定着してしまっています。

 幻想図書館で出る質問の筋から行くと、たぶんそのミストルテインは、ヘズがバルドルを殺したときの道具のことを指していると思うんですよね。(だとするとヤドリギが正解)

『フロームンド・グリプスソンのサガ』っていうのは、ちょっと見たことないので、よくわからないんですが…トールキン訳みてみたかったなぁ。(読めんちゅーねん)
 

投稿時間:2002/12/12(Thu) 14:25
投稿者名:きよ
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タイトル:
サクソ著「ホズとバルドル」
 デンマークの伝承(『デーン人の事蹟』)だと、ホズは盲目でもなく、またバルドルとは兄弟どうしでもありません。ナンナという女性をめぐってバルドルと戦い、ミーミールから奪いし名剣(ヤドリギとは言っていない)でバルドルを討ち取る設定になっているようです:

 では、サクソ・グランマティクス『デーン人の事蹟』第3巻でのこの挿話を、英訳から起して要約します。原典はラテン語なので、名前は-ルスとか-ウスなんですが、英訳ではこれをスッパリ切捨ててしまっています。

1. スウェーデンの王子ホズ[ホゼルス]は、少年の日々を養父ゲヴァール[ス] Gewar/Gevarus (摂政/代理王)の師事のもとにすごす。ホズにとっては父王の亡きあとであるから、その里子になったも同然である。
 ホズは若き頃より、あらゆる武術に秀で、楽器も能くした。けっして器量はよくなったが、乳のみ兄妹である王女ナンナはそんなホズに想いをよせるようになる。

2. ある日、バルドル[ス]がやってきて、ナンナの入浴する姿に一目惚れしてしまう。それには恋敵のホズを亡き者にして手に入れるしかないと思いつめる。

3. 同じ頃、ホズは狩猟に出かけた最中に、森で《森の乙女》らに遭遇する。乙女らは自分たちの素性をこう語る―彼女らは、戦の勝敗を左右する采配する存在であり、また、姿をかくして人間同士の戦に参加することすらあるのだと。
 そしてバルドルが、ナンナに恋してしまったことを告げる。ところが、天の落胤である半神半人バルドルである。そのバルドルに対しては、こちらから戦をしかけて臨んではならない。そう助言を言い残し、まるで夢の跡形のように乙女らは姿を消す。

4. ホズは、この出来事を里親のゲヴァール[ス]王に語り、間髪入れずにお嬢さんをもらいうけたい、と請願する。
 王は、応じてやりたいのはやまやまなれども、お前が語ってみせたとおり、バルドルがやってきて娘との婚姻を申し込んできおった。
安易に断っては、怒りを買う。バルドルの体は、聖なる力で守られ、鋼も通さぬということじゃ。しかし、森神(サテュロス)のミーミング[ス](≒ミーミール)ならば、バルドルに致命傷を与えられる剣と、持ち主の富を殖やす《殖産の腕輪》を持っておる。しかしたどりつくのが艱難な道じゃ。トナカイに牽かせた車を御して凍てつく谷を越えるがよいぞ。ついたらば、ミーミングの棲む洞穴の前に野営の天幕を張り、ひたすら待ち続けるのじゃ。きゃつめが洞から、出てきてお前の天幕に影を落としたときが、ミーミングをひっとらえるチャンスじゃ。と策を伝授する。
 ホズはその通りにやってみせ、ミーミングの宝をせしめる。 ホズはその通りにやってみせ、ミーミングの剣と腕輪をせしめる。

5. ゲルダー[ゲルデルス] Gelder/Gelderus というサクセン王が、この宝を横取りしようと海戦をしかけるが、負け戦となり、この王はいさぎよくホズの軍門に下る。また、ヘルギ[ヘルゴ]という若きハルゴランドの王は、極度の口下手あるいは言語障害のため、自分の口からプロポーズできずにいるのが、ホズはこの代弁者を買ってでてこれを助け、親友を得る。

6. この隙をついて、バルドルはナンナとの結婚について詰寄るが、ゲヴァールは娘の心をたしかめてくれ、という。ナンナは、なにゆえ半神のお方とでは身分がつりあいません、などとごまかして、バルドルの求婚をさらりとかわされてしまう。

7. ホズはバルドルのこの横恋慕に腹を立てているが、どうしてくれようかとヘルギと相談するが、それは血気早い若者らのこと、けっきょく海戦をしかけようという結論に至る。バルドルの側には、オーディン[オーティヌス Othinus]やトール[トールス Thor(us)]その他の神が戦った。人と神との衝突で、とても勝ち目はなかろうかと思われた。じっさい、棍棒(clava[羅],club[英])をふるうトールの邁進ぶりには、すさまじいものがあった。しかし《鋼をもはばむチュニック》を身に着けたホズは前線に躍り出て、かの剣をふるって棍棒を取っ手の先からすっぱり切り落としてしまう。頼みの武器を台無しにされた神々の軍は、
あたふたと遁走する。

8.一段落付いたのでホズはナンナと結婚。

9. しかし凱旋の将として、また王君としての光栄にひたるもつかのま、ホズは陸上における雪辱戦で、こんどはバルドルに敗けを喫してしまう。

10. 戦勝をおさめても、バルドルの恋煩いは、よほどの重症で、夜現れる幽霊もナンナの容姿を装って、たぶらかしにくりありさま。立って歩くのもままならないほど憔悴しきって、しかたなく馬車で外出するしまつである。
 また、神々の摂政フレイが人身御供の儀式などをおこないはじめる。

11.それまでスウェーデンは属国あつかいで、デンマークに朝貢していた。ところがデンマークに事変がおこり、国を統べる王がいなくなってしまった。これを機にホズは継承権を主張し、国民に請われてスウェーデン・デーンの王位を兼ねることになった。(スウェーデンは兄弟のアジスル Athisl に一任しようとしたのだが、急逝してしまう。)

12. しかし、バルドルがぜーランドまで艦隊を率いてやってくると、デーン人たちはこちらにも王同然に媚を売るのである。よってデーン人の歓心をめぐり、ホズとバルドルは、三たび目の戦いを交えることとなった。ホズは、またもや逃走を余儀なくされた。落胆にくれるホズは、奥深い山林にこもり、垢まみれの隠者となりさがり、孤影をしのび瞑想にふけり、ときおり丘頂にあらわれては、そこから政務の指図をするようになった。不在の王、懶惰の王とて、国民のそしりの種となった。

13. さすらいのホズが、辺鄙の山道をめぐり、無人の樹海を抜け、ある洞穴にたどりつくと、そこには見知らぬ乙女たちが住んでいた。いや、それは、かつて彼に無敵の胴着をさずけた乙女らであったのだ。
彼は、最近の武運のなさを嘆息まじりに語るのだが、乙女たちは、勝利こそ得ていないが、敵軍がこうむった被害もまた、こちらと互角なのだと諭し、今度こそ、勝利をものにする方法がある、と教える。
それは、これまでバルドルの力を増強してきた《不思議の糧食(edulium)》があるが、これを奪えば、難なく事は成る、と。

14. ホズは蹶起し、バルドルとの決戦に挑む。バルドルもデーン人を駆り集め、戦にのぞむ。両軍とも殺戮はすさまじく、血みどろの戦果は双方が伯仲する。ついに夜のおとずれが休戦を余儀なくする。
 気の昂ぶるホズは、休眠もとれず、夜更けの警備をすりぬけて、ひとり敵陣の偵察に向かう。
 そこで、あの《秘饌》の膳を、いま三人の乙女がバルドルに運ぶところだということを耳にする。
 ホズはこれを追いかけ、その住処をつきとめる。乙女らに誰何されると、ホズは自分は敵陣からやってきたが、絃楽師だといつわる。しかし、その証拠にと弾いてみせた竪琴の弾きっぷりは、じつに見事であった。
 乙女らは、かの神饌に三匹の蛇の顎からしたたる毒を混ぜ、強壮の効果を与えていた。
 乙女らは、ホズに好意をしめし、神饌の一部を分けてふるまおうとも思ったが、長女が禁じたためにこの馳走はされなかった。かわりに《必勝の帯》をもらいうけた。

15. 帰途にホズはバルドルに出くわし、その脾腹に深く剣を刺し、半死半生に置き去りにして自分の野営に舞い戻った。ホズの陣には歓声が沸き起こり、デーン人の陣は、死を間近としたバルドルを悼んで公の儀式をとりおこなった。バルドルは、坐臥して死ぬることを辱とし、輿に乗って戦場に赴いたが、[*冥界の女王]プロセルピナが夢枕に立ち、三日せずしてバルドルは息をひきとった。亡骸は墳墓に埋められた。

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