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アスワン(2) フィラエ島


フィラエ島はこの旅のメインの1つだった。湖の真ん中にぽつんと浮かぶ、緑に囲まれた神殿の図は、初めて見たときから惹かれていた。
水辺から一歩離れれば荒野の始まるアスワン、ダムによって裾野を沈められ、不恰好な岩の塊だけを水面に突き出す島々の中、ただ唯一、フィラエのみに花が咲き乱れる。これぞ現実世界のファンタジー。


小さな船で、アスワン・ダムとアスワン・ハイ・ダムの間にある湖に乗り出す。神殿のある島以外は、岩がごつごつしていて、植物もほとんど生えていない。



水没する前は、この辺りにも人が住んでいたという。
崖の上には、ずり落ちそうな古い家が、それでも、必死で大地にしがみついている。



湖の中に、緑に包まれた神殿が現れる。
イシス神殿は夕暮れに見るととても美しいそうだが、今回は真昼間に訪れた。それでもファンタジーな魅力は十分だ。

ガイドさんに聞いた話では、今のフィラエ島(元はアギルキア島と呼ばれていた)に植えられている植物は、全て、今はダムの底にある「元の」フィラエ島から移植したものだという。神殿を取り囲む緑自身も、神殿の一部ということか。
…アスワン・ダム(ハイダムではないほう)が出来た時点で、島はいちど全水没しているはずなんだけど、どうやって移したんだろう。そこは謎。でも事実、この島だけは木々が生い茂っているんだよな…。


船着場から上陸すると、すぐ目の前にキョウチクトウなどの花をつけた木々がそよぐ。エジプト壁画の世界だ。

「フィラエ島は、イシスが幼いホルスを隠して育てた中州 として信仰されていました。でもそれは元からではないです。元はナイルの下流でしたが、時代が進むとナイル上流にイシスの信仰が移りました。」

と、色白のガイドさんが説明してくれた。

ナイルの下流は新しい宗教のほうが盛んになり、地中海から遠く、他の国々からの影響を受けにくい南の果てで昔ながらの信仰が生き残ろうとしていた時代のことだろう。

この神殿、アスワン・ダムができたあと、半分水没していたせいで彩色は全て流れてしまい、柱には黒々とナイルの泥の跡がついている。それでも不思議な魅力に包まれているのは、周囲の風景とマッチしているからだろうか。

↓ネクタネボのキオスク と思われる場所


柱の下のほうについている黒い帯が水没の跡だ。「ナイル・カラー」とガイドさんは言っていた。ナイルの恵み、黒い土の色。

ここが、この神殿の最初の礼拝堂。

エジプトの神殿は、最初は小さな神殿だったものが、新しい王が即位するたびにどんどん増築して巨大な神殿になっていくことが多い。たとえば、カルナックの大神殿がそうだ。

ここ、イシス神殿は、保存状態がいいため、建てられた時代、手が加えられた部分が分かりやすい。


↓ナイロメーター(見た目ただの階段^^)


一緒に行った人と「あー…これ、マップチップで作ったよね」と、話し合う。
うん、僕らはいい仕事をしたよ。

ここのすぐ近くに、確認されている限り「最後の」ヒエログリフ(4世紀頃)がある。写真は失敗しました、うん、そこは許せ。自分が一番切ない。



↓入り口近くの柱。


パピルスと椰子を組み合わせた、珍しい柱なのだそうだ。
蓮だけ、椰子だけという柱はあっても、両方組み合わせた形式の柱は、ここにしかない。と、ガイドさん。う、…ま、まだまだ勉強が足りません(汗

柱の下部には、アスワン・ハイ・ダムの完成前に、解体して運ばれたときのマーキングが残っている。

↓「復讐者」ホルスの神殿 と思われる場所


思われるっていうのは、持っていった地図で見るとその辺りだけど廃墟しかなくて何も説明書きがないってことです。^^;

メインのイシス神殿、ハドリアヌスのキオスク、ハトホル神殿あたりはきれいに残ってるので分かりますが、神殿の裏手は木が茂って石が散らばってるだけでした。まあ、だいたいどこの遺跡もそんなもんですよね。


↓コプトの祭壇


ついにキリスト教の波が神殿にたどり着いたとき、彼らはそこを自分たちの礼拝堂にしたらしい。
でも、神殿の中で一番重要な聖域を流用したわけではない。
あくまで「間借り」という感じなのだ。徹底的に以前の宗教を完全に破壊したわけではない、というところがポイントだろう。


アスワンのダム湖の水は、かなり透明度があった。魚もいたし、魚をとっているサギもいた。下流のルクソールやカイロと比べると、水の色が全然違う。
この辺りは家が少ないので、それほど水は汚染されていないらしい。

と、いうわけで、「ナイルの水の味見でもしてみるか!」…と、なめてみたのだが、意外なほど塩辛かった。自分の手についた汗の味? それとも塩害?

下流はとても触れたものではないくらい汚れているので、ナイルの水を飲むとまたエジプトに戻ってこられるよ的なオマジナイは、最上流のこの辺りでやることをオススメ。でもお腹壊すので大量に飲まないようにね。

#余談ですが、フィラエ島を往復しているボートは全てYAMAHAモーター搭載でした…。


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