サイトTOP別館TOPコンテンツTOP


もしも日本にピラミッドを作るなら。(3)

合成画像ぱーと3。/山の写真→かもめ工房(閉鎖?)/ピラミッド写真→OsirisExpress

【用途】

さて、技術大国・日本のテクニックと資本を惜しげもなく投入し、実際エジプトに作られたものと寸分違わぬピラミッドが完成したとしよう。

もちろん観光に使うくらいしか出来ないが、ありきたりの「レジャーランド」などには使って欲しくないというのが、オレの正直な感想である。何しろピラミッドは基本的に宗教施設。崇めろとは言わないが、在り難いものであることは間違いない。

付近の山に温泉などを発掘し、「ピラミッドの見える長寿の湯」。
ピラミッドパワーで若返り、死後蘇れそうな勢いである。

また、折角河岸神殿を作ったので、葬儀場として使うのもバッチOK。
どっちかというと、若者ではなくご高齢者向けの施設なのだ。

仏教もそうだが、宗教とは死への恐怖の克服と、来世への約束が教義の重要な部分を占める。
救いが無いと言われる現代において、巨大ピラミッドは、人々の視覚に絶大なインパクトでもって訴え、なんだかよく分からないがご利益ありそうな気持ちにさせる、救いのシンボルとなることだろう。


【安全性】

国家事業とは、国民のためといいながら、実際のところ政治家のエゴと保身のためというのがお約束である。
もちろん日本におけるピラミッド建設においても、国民の安全は考えられていない。山の中に巨大な石の建造物を作って地盤がどうなるか、とか、大量の石を切り出してどうなるか、とか、そんなものは無視。結果、山がまるごと崩れたところで知ったところではない。

まず、日本といえば地震大国。この狭い国土の下でプレートがせめぎ合い、かなりの頻度で大地震も引き起こす。
エジプトとは大違いである。
そんな危険な国に、崩れやすい石の建造物など作るのが、まず間違いなのだ。^^;
石と石の間をコンクリートで接合しても、勿論、震度6の地震が襲えば剥離する可能性が大いにある。
(なぜ日本で、石ではなく木の文化が発達したかという一つの理由に、木なら柔軟性があり、地震の時も石より崩れにくいという点がある。つまり石づくりのピラミッドは、五重塔より崩れやすいのだ…。)

また、崖崩れという素晴らしい自然災害も、日本には頻繁に発生する。
もともと日本の山は急斜面で、崩れやすい。ピラミッドを作るために大量の石を切り出し、山肌があらわになった状態では、地盤も緩んでいるだろう。工事のために周囲の森を伐採することも悪影響を与える。
山自体の岩盤が緩かった場合、石を積んでいる最中に、土壌が重みに耐え切れず、沈降していくという可能性も。周囲の山が崩れてくると、せっかく積んだ石のてっぺんが新たな地表のいちばんてっぺん、なんてことにも。それはそれで、地下室を作る手間が省けそうだが。

エジプトの場合、ピラミッドの建設地は、周りに何もないギザ台地という高台。しかも、下は固い岩盤である。ぜんぜん環境が違うんですな。


追い討ちをかけるように、雨の被害も発生する。
エジプトはもちろん、ほとんど雨の降らない国だが、日本にはとかく雨が降る。エジプトの年間降水量は80mm、日本は平均して1700mmくらい、と、比べ物にならない。
柄杓で水をぶっ掛けるのと、真上で蛇口をひねるのとの違いくらいだ。

もちろん石積みは浸水するだろうし、日陰になっている北側など、雨の影響でコケむすのは必至。さらにペンペン草などが頂上付近にそよぎはじめると、もはやピラミッドというより違う建物である。
それを防ぐためには、こまめなメンテナンスが必要となるが、オフィスビルじゃあるまいし、果たして、保守のための大金をいつまで捻り出せるのか。

…巨大な石積みは、「日本」という国に作られた時点で、既に崩壊して行くさだめにあると言えるだろう。


【四季折々】

かくして、あまりにも無謀なピラミッド建造計画は幕を閉じる。
作ったもんの、大赤字を出して閉鎖、そのうち誰からも忘れ去られてヒッソリと朽ち果ててゆく…というのは、第三セクター施設の宿命である。^^;

雨と風と雪にさらされ、少しずつ崩壊しながら、しかし撤去するにもお金がかかるため、そのまま放置され時が過ぎ。

そして数十年経ったのち、一部の人々はその遺跡を求め、山に登るようになる。
古き時代の記憶と遺産、そして回顧。
日本には、四季がある。周りの雰囲気が大して変らないエジプトのピラミッドと違い、日本のピラミッドは、その日の天候と季節ごとに、大きく違った姿を見せ、芸術家たちを魅了すること間違いなしである。

カメラに収められた人気のないピラミッドは、あるときは見事に燃え立つ紅葉の中に憂いを帯びて、またあるときは一面銀の雪化粧をして、静かに佇んでいるのであった…。


<完>


前へ   戻る   次へ