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第十八話 シヌヘの物語

−前編・シヌヘ東へ行く−


 シヌヘの物語、とは、アメンエムハト1世の廷臣にしてシヌヘ、古代エジプト語の発音で言うと「サ・ネヘト」(ネヘト女神の子供)による自伝的作品です。
 何がなんだか分からないうちに国外に逃亡し、砂漠で成功し富を持つのに、歳をとってから「死ぬなら故郷で」とか言い出して戻ってくる。なんともドラマチックでどっかの小説みたいな展開ですが、これが当時のベストセラーだっていうんだから、驚きですネ。

 シヌヘそのものは実在の人物と考えられていますが、その自伝内容は、あんまり信用されていません。何でかって、そりゃ、自分の人生を思いっきり美化した痕跡があるからで…。
 とりあえず軽く流してみますか。

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 シヌヘは、アメンエムハト1世(第12王朝)および、その息子のセンウセルト1世の時代に生きたようです。
 アメンエムハト1世というのは、先王朝の最後に即位した女王、セベクネフェルの後を継いで、第12王朝を打ち立てた人。女王は数年で亡くなっており、そのあとすぐに即位していることからして、実は女王を暗殺して政権奪ったんじゃないの? なんて邪推も出来ますが、この人自身も陰謀によってサックリ暗殺されてます。
 なんだかやたらと「王様、暗殺」というイメージの強いエジプトですが、歴代エジプト王の中で、「暗殺された」ことが確かなのは、数人程度なんですよ実は。(暗殺が横行したのは、むしろ末期王朝以降の衰退期)
 その、数人の不幸な王様たちの中の一人が、この人。

 なかなかのヤリ手だったようで、国土拡大に努め、出身地テーベのアメン神を奉り上げていた人なんですが、それでも暗殺は防げなかったのね。
 主人公シヌヘは、そんな王様の娘で、次代の王・センウセルト王子の妻、ネフェルウのハレムに仕える役人でした。
 ハレムっつっても、王様が美人なおねいちゃんに囲まれてヨロシクするところではありませんよ。(笑)
 女性たちが暮らす場所が、公的なスペースとは別にあって、特別な名前で呼ばれてた、ってことです。

  アメンエムハト1世が暗殺されたとき、シヌヘふくめセンウセルトとその他の王子たちは、軍を率いて、リビア討伐のため南へ出払っていました。そんな時、留守中の王宮で王様暗殺事件が勃発! 知らせを受けて、センウセルトは一人で先に首都へ戻ります。
 シヌヘは、どうやら、この事件をコッソリ立ち聞きして知った模様。
 そのとき彼は恐れおののき、何故かダッシュで逃亡を計画。
 でも、何で?
 理由が書かれていないので、勝手に推測。

 ・シヌヘは、反乱が起こることを知っていた
 ・シヌヘの知り合いが反乱を起こした
 ・シヌヘには反乱を疑われるだけの理由があった

 さぁ、ドレだ!!(笑) もう何千年も経ってるから時効だヨ? さぁ吐け。

シヌヘ「吐きたくない…ごめんなさいハトホル様…!」(走り去るシヌヘの頬から、きらきらと涙が零れ落ちる。)

 ヌビアから北へ、テーベにある王都をさらに越え、エジプトの国を脱出して、東へと逃亡を続けるシヌヘ。おお、シヌヘよ、何がお前をそこまでさせるのか。何がお前を異国へと駆り立てたのか。ま、そこらへんのイヤなことは書かないあたりが自伝文学。

 そして旅立った勇者、もといシヌヘでしたが、Lv1では行き倒れて当たり前。荒れた土地を越え、さっそく行き倒れているところ、アジア人たちのキャラバンに助けられます。しかもその部族の族長は、かつてエジプトに来たことがあり、シヌヘのことを知っていたという、お約束なまでの都合よさ。
 地獄に仏とは、このことです。(砂漠の民はブティストではないが。)
 顔見知りの族長の世話で、ともにシリア周辺の国々を渡り歩く、流浪のシヌヘ。
 元・廷臣ですから読み書きも出来ますし、通訳その他、お役立ちだと思われていたのでしょう。

 あるときシヌヘは、アンミ()という、セム系アモリ人の族長に謁見し、エジプトの内情について質問を受けます。なぜ彼がここにいるのか。エジプトでは、王位継承に何か問題があったのか、と。
 シヌヘは答えます。王アメンエムハトが殺害され、その地位は王子が恙無く継いだ。しかし、内情が不安定になっていたため、国を離れたのだ、と。
 ここでも彼は、自分が逃亡した本当の理由は言いやがりません。

シヌヘ「私の心はひるみ、私の心臓(マアトの宿る場所)は体を抜け出し、私を逃亡の旅へと連れ出したのです。でも、誰も私の悪口は言いませんでしたし、そう、このたびは、神様の思し召しじゃないかな、なんて思うんですケド。」

 ものは言い様、っていうか。…アンタ、ごまかしすぎ。

 さらにシヌヘは言います。
 族長殿はエジプトへ行って、栄えある王に挨拶し、贈り物でもしとくべきだ。王が暗殺されたといっても、影響力が弱まったわけではないのよ? 逆らうとエライ目にあうから。まぁどーんと信頼しちゃってよ。なんせ俺、エジプトでは偉い人だったんだから。

 これにコロリと騙され(?)た族長は、シヌヘに大いに感謝し、自分の娘を嫁にやろう、とか言い出します。ぶっちゃけシヌヘは、国の内政を情報提供するかわりにアンタのところで楽な暮らしさせて頂戴、ってことをやったんですね。仕える相手を鞍替えしたんですね。(笑顔)

 そんなこんなで、したたかものは何処へいってもわりと裕福に暮らしていけると。
 族長に嫁と土地と役職を貰い、エジプトから来る人、エジプトへ行く人を家に招いて、各国情勢など探りつつ日々を暮らしてしたシヌヘ…そんな彼に、さらなる怒涛の運命がふりかかる?!

 お話は、後半へ続く!

*ワンポイント*

本では「アンミ・エンシ」と書かれている。この人は原文中で上レテヌーの支配者と述べられているが、レテヌーはシリアなので、当時のシリア北部の支配者だったと思われる。アンミとはアモリ人系の名前だそうだ。(摩世界文学大系1  古代オリエント集より)
ちなみにシュメール語では「エンシ」は王を意味する。紀元前2400年ごろ、アッカド時代に入る手前頃からは各都市の王たちをひとつにまとめる「天皇」のような位が出来てくるので、エンシは「県知事・都知事」のような立場に変化する。つまりアンミ・エンシとは、北部シリアの一都市の支配者・アンミさん、という意味なのだ。



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