06/08

―P2Pソフトは「悪」なのか?

 〜合法ファイルを流したって、厄介者には変わりない〜

 世界の通信の半分は、ファイル共有ソフトの通信で成り立っている。なんて冗談だか本当だか分からない調査結果を、どこかで読んだことがある。数年前の話だ。
 その頃、日本でもWinnyやWinMXなどによるファイル共有が問題視され、著作権侵害で逮捕者も出ていた。だが私が心配していたのは、一部のユーザーによる帯域占有だ。
Winnyをはじめとする、P2Pソフトの通信遮断をはじめたプロバイダがあるらしい、と聞いたときは、ああ、やっぱりそうなるか。と思った。

 P2Pソフトの使用は、インターネットサービスプロバイダにとっては、ずいぶん前からかなり頭の痛い問題だった。

 P2Pによるデータ交換は、通信データ量を爆発的に増やす。ISP側が「ひとりのユーザが平均この程度の通信をする」と想定している通信量をはるかに越えているわけで、通信機器に想定外の負担をかけることになる。バックボーンの処理能力も超えてしまう。
 プロバイダ業というのは、設備投資と人件費を差し引くとほとんど儲からない、かなりカツカツの業種である。ファイル共有で使える帯域は限界までガンガン使って当然、「金払ってんだから、どう回線使おうがかまわんだろ!」なんて思っている一部のアホなユーザーにはわからないかもしれないが、快適なインターネット接続環境を実現するためには、高額な機械を多数設置する必要がある。ある程度の顧客数が見込めて、収入の目処がたたなければ、ほいほいと設置できるものではない。そこに、一人で100人分くらいのデータ量をやり取りする客が来たら、どうなるのか。200人のお客が利用すると計算して設置した機器が、わずか101人で処理能力オーバーになってしまう。これでは赤字だ。
 ISPは、たとえ最大手と呼ばれるところだって、24時間延々繋ぎっぱなし、帯域占有しっぱなしのヘビーユーザーのためにバックボーンの増強などする余裕はそうそう無いのだ。

 どうして帯域の占有が困るのか、分かりやすいところで共有型Bフレッツをあげてみる。
共有型なので、1本の回線を16のご家庭で共有していたとしよう。そのうち1件にヘビーユーザーがいて、Winny繋ぎっぱなしのため、常時回線の半分以上の帯域が常時そのユーザーに占有されているという状況だったとする。
 そうすると接続の集中する夜などBフレッツと思えないほど遅くなってしまう。ずっと繋ぎっぱなしの人は、人の少ない深夜や早朝にファイルを落とせるからいいだろうが、使いたい時間帯の決まっている人からすれば迷惑そのもの、「皆おなじ料金払ってんのに、なにオマエだけ回線余計に使ってんだ!」と、他の15家族は心穏やかではないだろう。
 実際、マンションの共有タイプの回線で、常時重たいデータを流しつづけたために他の利用者からクレームがついたケースも少なくない。プロバイダに「回線が遅い」と文句をつけた阿呆が、実は自分がWinnyでファイルを公開していたからインターネットのブラウジングが遅かったという笑い話もあったりする。
 このように、P2Pには技術やモラル以前に、そもそもインターネット世界を破滅に追いやる、リソースの無駄遣いに貢献しているという大きな問題があるのである。

 インターネット世界は有限だ、ということを理解して欲しい。

 そう、有限なのである。機器の能力や回線のキャパシティに縛られた世界だ。無尽蔵にジャンクデータを垂れ流す余裕などない。リアルの幹線道路に交通渋滞が存在するように、通信データが増え続ければ、基幹機器の処理能力を越える日は遠からずやってくる。
 それでもP2Pでファイル交換したいという人は―― 自分の利用状況に応じた金額でサービスを受けるべきだ。接続時間が長く、しかも帯域を食いつぶすような使い方をしている人が、一般ユーザーと同じ接続料金で済むなど、おかしな話。いっそISPはプレミアムコースでも作って、P2P通信を一切遮断しない代わりに一ヶ月5倍くらいの料金をとって、ヘビーユーザーを隔離すればいいのではあるまいか。(それでも、高額な通信機器や太いバックボーンを確保するだけでかなりの設備投資が必要になり、モトがとれなさそうだが。)

 現状、規制をかけられてお門違いの文句を並べ立ててインターネット上で騒いでいる人々も多いが、本人たちは、今までいかに不当にインターネットリソースを浪費してきたか、気がついていないのだろう。言って聞きそうもないのだから、ISPが実力行使に出るのは、もう仕方がない。一部のヘビーユーザーを切って他の多数のお客さんに快適に使ってもらおうという選択なのだから、むしろ一般人にとっては有難いことだ。

 Winnyの問題は、ウィルスによる情報漏えいや、アップロードされる著作権侵害のファイルなどが焦点にされることが多いが、ウィルスがなくたって、自分の作った短編ムービーをアップロードしたって、有限な通信帯域を圧迫するという意味では、厄介者には変わりが無いのである。

 P2Pソフトは「悪」か?  Yes.その存在は現時点では悪である。

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