05/01

―僕は翼が欲しいと思ったことがない

 
 思うに、天使なんてものは、天の使いっパシリで、サラリーマンなのだと思う。
 神様が決めた人にしか幸いを運べないのだから、たとえ目の前に今ほんとうに自分が幸いをあげたいと思う人がいたとしても、今から行くべき人間と違っていたら、その人には何も出来ないことになる。自分には与えるべきものがあり、目の前に与えられるべき人がいる。しかし素通りしなければならない。天使が良心的な生き物だとしたら、心苦しい状況だろう。
 神様には見落としがなくて、その人には別の天使が遣わされている、と、信じるしかない。

 でも僕は信じない。
 神様はいつだって仕事でヘマをやらかす。死ぬべきじゃない人を、死ぬべきじゃないところで殺してしまうし、多少の報いがあってもいい人を過酷な運命に置き続ける。それとも、そういうのは神様の不出来な部下たちが作ったもう一つのカンパニー、「地獄」の仕業だろうか?

 でも僕は信じない。
 堕天使は天国で覚えたノウハウを持って地獄に天下った官僚じゃないか。神様も天使も悪魔も、やってることは基本的に変わりゃしない。
 君たちは経済的循環のことなんか考えない。よその大企業「イスラーム」や「仏教」に渡したくないからって、すべての魂は、君たちの懐の下か、金庫の中で浪費されている。

 僕は翼が欲しくない。人に翼はない。
 翼があるのは鳥だけで、翼をもっている人間は天使でなくてはならない。僕は天使というやつが、鳥肌が立つほど嫌いなのだ。やさしげな笑みを浮かべて近づいてきたら、やめてくれ、僕の魂を担保に入れたいのか、そんなに儲けが大事なのかと渋い顔をしてやろう。
 生命保険屋と同じように、死後の安楽なんて説かないでくれ。

 生きていくために必要なものを、僕は、もう持っている。
 それ以上のものは要らない。翼は必要ない。おお神様、あなたが本当にそこに、十字架の向こうにいるのなら、あなたの特別な愛さえ要らないと慎ましやかに拒む無欲なこの僕が、どうか、翼を持つ人々から遠ざかっていられますように。

 
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