古英詩 ベーオウルフ-BEOWULF

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「ベーオウルフ」の剣たち


マイナーなものから有名なものまで集めてみました。意外とあります。
なお、資料がアングロ−サクソン語だったため、
綴りには、アルファベットじゃない文字も入ってます。


剣名 初登場行 元の所有者 効能・物語中での役割
ヘアルフデネの剣
Brand Healf-denes
1020 ロースガール王 グレンデル討伐の報酬として、ロースガールからベーオウルフへ譲与される剣。名前からして、ロースガールの父・ヘアルフデネの遺品だろう。この剣と同時に、軍旗、兜、鎧などが贈られている。
(フ)ルンティング
Hrunting
1457 ウンフェルス 「ベーオウルフ」の中で一番有名な剣。ウンフェルスからベーオウルフへと渡る剣。長柄の剣で、『刃は鉄、毒枝の焼き模様が記され、戦いの血に固められている』と表現され、それを手にした者を裏切ったことはないと言われていた。…そのわりには、水魔討伐には全く役に立たなかったが…。
巨人作りの剣
Sweord eotenisc
1558 水魔 ベーオウルフが水底の水魔の宮殿で発見する剣であり、水魔とグレンデルの殺害に使われる剣。古代の巨人によって作られた大剣で、黄金の柄には輪飾りがあり、刃には波の綾が浮かんでいた。刃は妖魔の血で溶けてしまったが、物語の刻まれた柄の部分はロースガール王の手に渡される。
レーゼルの遺品
Hreðles lafe
2191 ヒゲラーク王 ベーオウルフの祖父にあたるレーゼルの所有していたものと思われる。ゲータ人の所有する中で最高の宝剣。黄金づくり。ベーオウルフを侮っていたはずの王は、この剣とともに領土の半分を割譲し、共同統治を行おうとした。
ネイリング
Nægling
2577 ベーオウルフ これも有名な剣。最初の登場シーンでは「イングの古宝」と呼ばれている。ベーオウルフの怪力で、竜の頭に叩き込まれて折れてしまう。ちなみに、「ネフリング」は間違い表記。
エーアンムンドの遺品
Eanmundes laf
2611 ウィーラーフ オーフテレの子、エーアンムンドの遺品である古剣。これも巨人の作とされる。ウィーラーフの父・エーオフスターンが放浪中に討ち取って剣を持ち帰った。


 ベーオウルフといえば(フ)ルンティング、というくらい有名な剣のわりに、全然役に立ってませんよコイツ。しかも、この剣、腰抜けのウンフェルスが所有してたものだし…。「戦いにおいて使い手を裏切ることは無かった」と、いうわりにベーオウルフを裏切っているような気がしなくもない。人間に扱える最強の剣も、ベーオウルフにとっては玩具同然?
※フルンティングは、ヴォルスンガ・サガに登場する剣、フロッティ(Hrotti)と同じ名前。フロッテイは「突くもの」と訳せるそうです

 もう一本の有名な剣ネイリングも、はじめて綴りを見たときは「ネグリング」ではないかと思いましたが、専門家に聞いたところ「ネイリング」というのが原語に近い発音なのだとか。ううむ、意外。意味は「尖ったもの(中高ドイツ語だと、リングの部分が輪の意味となり、”尖った輪”になる)」…だとか。
 激しい戦いに真っ二つになってしまう…と、いうのも、悲劇を守り立てる最高の場面だと思います。

 それ以外の剣たちも、それぞれがドラマを持ち、戦いを経て、多くの名のある勇者たちの手を渡って来たもののようです。新しく作られた剣ではなく、竜の守る宝の中の宝剣や、王様から貰う剣、イベント終了後に誰かから預かるものであるところが、たいへんRPGっぽいです^^; 「親父の形見の剣で竜を倒す!」なんて展開は、胸にドキャンと来るものがありますな。

 巨人が作った剣…なんてものが出てくるのもビックリです。巨人族というとケルト神話を思い出しますが、実は、北のほうにも巨人は居たのですな。そういえば、カレワラの世界にも少しだけ巨人が出て来ます。もしかして、巨人族というのは、意外と広い範囲に棲息していたのかも…。(笑)


 ちょっとしたウンチクを述べますと、北欧において、鍛冶の技術というのは、移動民族が所持していたものと言われております。その異民族が鍛冶の技術とともに自らの神話を零していったため、鍛冶にまつわるヨーロッパの伝説は酷似しているのだとも言われます。
 たとえば、鍛冶の神は人間から隔離された場所(=地下、もしくは孤島)にて作業を行うこと。びっこ、片目など不具を抱えていること。また、イカロス伝説のように、「翼をつくり、隔離された場所から脱出する」というモチーフも、各地に見られます。

 その移動民族というのが、どのうような姿であったのかは古代の霧に包まれ垣間見ることしか出来ませんが、彼らが時を経て巨人族となり、人々に優れた剣を授ける存在となった…ということは、あながち、単なる想像ではないのかもしれません。


 なお、それぞれの剣に出てくる「波の紋」といった記述は、ゲルマンの剣の製造方法に原因があるようで、薄い金属板を重ねて打ち合わせる製法をとっていたため、そのような紋が刀身に浮かんで見えたのだといいます。日本の刀剣とは異なった方法で製造されていながら、模様の浮かび方が似ている(少なくとも、表現上は)というのは、面白いものです。

●おまけ

ベーオウルフの剣 (フ)ルンティングはなぜグレンデル退治の役にたたなかったのか
ベーオウルフの翻訳あれこれ「ネイリングは灰色の剣なの?」



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