ニーベルンゲンの歌-Das Nibelungenlied

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ダンクワルト

Danchwart/Dankwart


【作中の役割】

猛将ハゲネの弟。主馬の頭をつとめ、若年の兵たちを率いる。もちろん強いが、それだけでなくも物腰柔らかで、礼儀正しい人物として描かれる。彼自身のセリフから、ジーフリト暗殺事件の際はまだ年若かったようだ。
エッツェル王の宮廷における奇襲事件では、九千の部下全員を失いながらも単身宮廷へたどり着き、兄ハゲネに襲撃を告げる。

クライマックスで、ヘルプフリーヒに討ち取られて死亡。


【作中での評価】

「若年の兵を途中で監督する役は勇敢なダンクワルトにたのみましょう。彼は手だれの勇士です。そうすればリウデゲールの軍からうける損害は少なくて済む。」(178)
−デンマルク勢との戦いの前、ジーフリトが布陣を提案する場面


「中でいちばんの若年の武士は、天晴れの者と見受けました。立派な勇士ですが、まるで処女のごとく淑やかで、作法正しく、優雅にふるまっておるのです。この国で誰かあの武士に無礼なことでもしたら困ると思うくらいでございます。」(414)
−プリュンヒルトの従者が、ウォルムスからやって来た4人について報告する場面


【名台詞】

「兄ハゲネはまだ一人きりにはなっておらぬ。いま和議に応ぜられなかったら、辛い目に会い申すぞ。そのことをおん身たちの心得のためにしかと申しておく。」(2107)

宮廷に追い詰められたブルグント勢に対し、ジーフリトの仇であるハゲネを引き渡せば和議に応じよう、と言うクリエムヒルト。それに対しダンクワルトが返した言葉が、これ。戦うときも倒れる時も共に在れ。兄弟の絆を感じますねえ。


【解説】

歴史的なモデルは不明。ハゲネに、片腕となる弟が存在する物語は、他に見かけた覚えが無い。

豪傑ハゲネの弟で、年はそれほど離れていないという描写。
兄ハゲネが鋭い目つきや恐ろしげな風貌で恐れられているのに対し、優雅な人物として語られるが、フォルケールと並び、ハゲネが信頼をおく人物の一人。ハゲネ、ジーフリトとともにグンテル王の求婚の旅に同行したり、ハゲネがゲルプフラートと戦って窮地に陥ったときにその名を呼ばれるなど、兄とのコンビネーションも見所だ。

主馬の頭として侍従や若い騎士のとりまとめを任されることから、おそらく面倒見のいい、人望ある人物だったのだろうが、「ひとたび暴れ出すと手のつけようがない」という評判どおり、戦いの時には鬼神の如き働きを見せる。
後編、エッツェル王の弟ブレーデルの奇襲の際、平兵士なんと九千名が全て討ち果たされてしまっているのに、彼ただ一人だけは無傷で生き残り、行く手を阻むエッツェルの兵士を薙ぎ払い打ち倒し、兄ハゲネのもとへ走るという凄まじさ。
その時ですら、兵士たちに「どいてくれ、通してくれ」とお願い口調なのが、ある意味恐ろしい。

戦いの中で倒れるが、彼はその死を補って余りあるほどの敵を倒していたという。
クリエムヒルトがジーフリトに嫁ぐ場面で、ハゲネが「トロネゲ出身の者のものの気風は、よくご存知のはずです」(699)と言うシーンがあるが、まことに、トロネゲの人々は気性荒く、勇敢な一族だったのだろうと思わされる。




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