ヴォルスンガ・サガ/ワルタリウス

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「ニーベルンゲンの歌」の中のウァルター



 「ニーベルンゲンの歌」に出てくるウァルターの記述を抜き出してみよう。こちらの物語、彼の名前は「ワルテル」になっている。


■エッツェルの宮廷に到着したブルグントからの一行を見て、エッツェル王が言うセリフ、

 「アルドリアーンのことならよく知っている、あれはわしの家来であり、わしのところで富と誉れを得たものだ。わしはあれを騎士にとりたてて、黄金を与えてやった。まめやかなヘルヒェは、心からあれに優しくしてやったのだ。
 従ってハゲネのこともすっかり知っている、身分のよい二人の子供がわしの人質となっていたが、それはハゲネとスペインのワルテルで、二人ともここで成人した。ハゲネのほうは送り返したが、ワルテルはヒルデグントと逃げたのだ。」(1755−1756)

■同じくエッツェル王の宮廷。ハゲネとフォルケールが座っているのを見て、クリエムヒルトが家臣たちをけしかけようとする場面で、家臣のひとりが口にする言葉、

 「ハゲネとスペインの武士(ウァルター)とは幾度も遠征を試み、ここエッツェルの許で国王のため数々の戦いをなし、それが幾度ということを知らぬほどであった。それゆえ人々が彼の名誉を認めるのは当然のことなのだ。」(1797)

■次はディエトリーヒの家臣たちとの戦いのあと、ハゲネとグンテルのみが城の中にたてこもり、ヒルデブラントとディエトリーヒがそこに立ち向かう場面で、ヒルデブラントが言うセリフ。

 「よくもそんなことを咎めだてされるものだ。スペインのワルテルがおん身の一族をあまた討った際、ワスケンの岩根で盾の上に座っていたのは誰であったか。かかる例はおん身にも数々あろう。」(2344)


 以上。これら、3箇所の謎めいたセリフが指すのが、ここに取り上げた「ウァルター物語」のエピソードである。「ニーベルンゲンの歌」の中でも、ハゲネとワルテルはフン族の宮廷にいたことになっており、滞在中に成人(12歳)して、多くの戦いに参加し武勇を上げたことになっている。だから、フン族の人々もハゲネの強さはよく知っており、クリエムヒルトが家臣たちをけしかけようとしても、怖がって手出しが出来ない。

 ただし、異なる点もある。
 最初のエッツェル王のセリフを見てもらいたい。「ウァルター物語」のハーゲンは故国のうわさを聞いて勝手に出奔しているのに、こちらでは、エッツェル王が「送り帰した」ことになっている。さすがに「逃げ出しました」とは書けなかったのだろうか。作者の趣味って気もする。
 さらに、どういうわけかハゲネの父親も、かつてフン族の王宮にいたことになっている。親子二代で人質か? しかし、「ウァルター物語」では、フン族が急襲したのはハーゲンが子供の頃のはずで、父親に関わる記述は出て来ない。
 実はハゲネの父親(アルドリアーン)ってフン族出身だったりして。だったら、フン族のもとで出世するという話も納得出来るのだが。

 さらにヒルデブラントが言うセリフの内容は、グンナルがウァルターを追跡し、森の中で戦いになるシーンを表している。舞台となる「ワスケンの森」は「ウァルター物語」のほうでは「フォスゲヌの森」になっているが、これはたぶん書き方の違いで、綴りとしては同じだと思う。口に出してみると、なんとなく響きが似ていることだし。

 ハーゲンは再三にわたってグンナル(グンテル)を止めようとするが、グンナルは聞き入れず、突っ込んでいって部下ともどもウァルターに返り討ちされる。そのときハーゲンは手出しをせず待っているだけだったから、「盾の上に座っていた」という表現に符号する。ヒルデブラントが言いたかったことを分かりやすく言いなおすと、「貴殿だって、かつて親友と戦うのをためらったではないか。
 そのように、誰にだって戦いたくない相手はあるものだ。戦いを拒んだからといって咎めるではない」と、いうこと。

 それにしても、なんで師匠はそんな異国の話を知ってるのでしょうか。ウァルターとの戦いを知っているのは、生き残った4人(ウァルター、ヒルデグンド、ハーゲン、グンナル)だけなんですから、誰かが話を漏らさなきゃ知られるはずはないのだが。

 …漏らしたとすると、たぶんグンナルだろう。
 口が軽そーだし、たぶん城に帰ってからもブチブチ文句言いつづけてたんだろうな。「あんときハーゲンはサボりやがった。役たたずめ」とか。(←命救われてるくせに)


 そのようなわけで、「ニーベルンゲンの歌」の世界では、ハゲネとワルテルが親友だったことや、強かったことは皆が知っている…という設定になっている。
 フォルケール以外にも親友いたんだな。親友は婚約者と手に手を取って逃避行するようなロマンチックな人だったのだ(笑)。

 それにしてもワルテル。ハゲネと互角に戦えたってことは、やっぱり化け物なみの強さだったのだろうか。





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