シャルルマーニュ伝説
-The Legends of Charlemagne

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つっこみルネッサンス

ロドモンの野望



 ロドモンって誰さ? …って、もう遥か昔のことのように思ってしまうが、そもそも、アフリカの軍勢が攻めてきた最初の合戦を思い出してほしい。
 あの、リナルドに馬から突き落とされてダッシュで逃げた、アルジェリア王ロドモン陛下ですよ。
 思い出した? リナルドとロジェロが出会うちょっと前のことね。
 で、そのあと、軍の指揮官アグラマンとケンカして軍を離脱して、引き上げてくるところだったのだ。
 相変わらず、この物語の登場人物たちは超身勝手。^^;

 イサベラは、死んだ恋人・ゼルビノのそばで嘆き悲しみ、通りかかった僧侶に助けてもらって、葬ろうとしていた。彼女は、恋人に献身を捧げ、一生祈って暮らすつもりだったのだ。
 だがそこへ、いらんことしぃのロドモンが通りかかる。
 「恋人が死んだ、だと? ふん、死んだ奴のことなど忘れてしまえ。いや、俺が忘れさせてやろう。恋人の代わりに、俺がたっぷり可愛がってやるよ…うぇっへっへっ…」
 いや待て。
 アンタそれ、騎士文学ではNGでないの?
 「あーれぇー」
 「お、おやめください騎士殿。神の道に入ろうというご婦人に乱暴なさるとは、正気の沙汰ではございませんぞ」
 「やかぁしい。俺様を誰だと思ってやがる。邪魔立てしやがるなら坊主、貴様も容赦しねぇからな」
狼藉者と化したロドモン、僧侶の胸倉つかんで海にブチ込み、溺死させてしまう。
 そして、恐怖におののくイサベラを、不謹慎にもチャペルに連れ込んで無理やりモノにしようとしたのだ。
 いやぁ〜、黄門様ー!
 だが残念なことに、ルネッサンス文学に便利な黄門様はいない。どうするイサベラ。このままだとロドモンの嫁にされてしまうぞ?!

 「殿…、お願いです、わたくしを離してくださいませ。もしもわたくしを自由にしてくださるなら、素晴らしいものを差し上げますから。わたくしは、ある秘薬の作りかたを心得ているのです。その薬を塗れば、体はどんな剣も通さぬ鋼鉄に変わります。さあ、お見せしましょう。わたくしを離してくださいませ」

 塗れば体が鋼鉄に、って。「竜殺しのシグルド」ですか。竜の血ですか(笑)
 そんな話信じてるロドモンもお間抜けさんだが、そんな話を思いついたイサベラもスゴイな…。

 ワインを飲んでぐでんぐでんに酔っ払っているロドモンの側で、イサベラはせっせと、自らの死を招く儀式の準備を始めた。
 怪しげな薬草を煮込み、呪文をとなえるふりをして、ロドモンが正気を失ったころを見計らって、さあ出来ました、わたくしが試してみますから、と言って、薬を自らの首にぬりつけ、ここを剣で打ってみろ…と、言ったのである。
 ヨッパライに正常な判断能力は無い。
 ロドモンはよっこらしょっと立ち上がり、じゃーやってみるか、とイサベラの首めがけて剣を打ちおろしたのである。
 結論から言えば、体が鋼のようになる薬なんか実在しないので、イサベラの首は体から離れてコロリと落ちた…。

 「……。 …えっ?

 えっ、じゃねーよ、アンタ。
 そんな薬あるんなら、最初っから恋人のゼルビノに塗ってたろ^^;
 「お、俺は…、俺はなんてことを…。」
異教徒とはいえ、チャペルで無防備なご婦人殺害ってのも、かーなり罪深いよね。

 どんな悪党にも良心のかけらはあるというもので、この悲劇を目の当たりにしたロドモンは、付近の大工をかき集め、チャペルのあった場所に、イサベラとゼルビノを祀る塔を建てさせた。そして近くを流れる川に狭い橋をかけさせて、ここを通る騎士たちから戦利品を奪い、二人の供養としよう、と考えたのであった。
 前半の発想は、実にいいことだと思うんだけどね。
 後半は間違ってるよ。

 「俺は心に決めた。ここを通る一千人の騎士たちから装備を奪い、積み上げるまでは、俺の懺悔は終わらないのだと。一千組の鎧兜を、あの塔に積み上げるのだ。」
 ロドモン弁慶、槍を手に狭い橋の上に立つ。かくて通りすがった騎士たちは、片っ端から装備をはがれ、川の中に突き落とされることとあいなったのであった。
 どこまでもハタ迷惑な男である。

 そんなロドモンだったがただ一人、止めることが出来なかった者がいた。他でもない、オルランドゥだ。
 しかし、あまりにも変わり果て、野生の獣のようになっていたオルランドゥを見ても、ロドモンはそれが誰だか分からなかった。
 狂ったように突進し、ロドモンもろとも川にダイブしたオルランドゥの行方は、杳として知れず。…それを見ていたのは、乙女フロルドリであった。
 「あ、あれは、オルランドゥ様…?」
 フロルドリは、ちょうど恋人フロリマールのあとを追いかけてフランスへ戻るところだった。こちらも、イサベラ・ゼルビノと同じく、オルランドゥが旅のよしみで恋路の手助けをしたカップルである。
 その彼女が恩人のオルランドゥを見誤るはずも無く、どんなに変わり果てていても、分かるものは分かるのだった。

 フロルドリは、すぐさま、パリで待っていた恋人にこのことを伝えた。
 「いったい何があったのでしょう、オルランドゥ様があんなふうになってしまわれるなんて」
 「分からない。だが、恩人をこのまま放っておくわけにもいくまい」
オルランドゥに助けられたカップルは、悉くオルランドゥのせいで苦労するというジンクスがある。
 川に落ちたオルランドゥを探しに行ったフロリマールは、途中、ロドモンに見つかって、あえなく捕虜にされてしまうのであった…。

 つくづくハタ迷惑な男だよな、オルランドゥ^^;



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