ヴォルスンガ・サガ/ワルタリウス

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 シドレクス・サガの主人公、シドレク王とはテオドリクのこと、つまり、ディートリッヒの原型となった人物にあたる。双方の神話の主人公は、名前は違えどほぼ同一人物と見なされることが多い。つまり、ここで登場するシドレクなる人物は、ディートリッヒ、…「ニーベルンゲンの歌」で言うところの「アメルンゲンの王 ディエトリーヒ」と読み替えていいと思う。
 シドレクの名で登場するディエトリーヒと、シグルドの名で登場するジーフリト。
 これは、彼等の、もうひとつの物語である。



それは、カルンガ(後のフランス)の国をジークムントという王が治めていた頃のこと。

王はシシベという名の王妃を娶り、幸せに暮らしていたが、ほどなく戦争が起こり出征することになる。
ジークムント王は留守中の王妃の保護を2人の騎士に任せるのだが、そのうちの一人、ハルトウィン伯という男は、王妃によからぬ感情を抱いていた。
ハルトウィンは王妃シシベに迫るが、貞節を守ろうとする王妃は、彼を拒みつづける。そのことを逆恨みしたハルトウィンは、帰国した国王に、嘘の不貞報告をしてしまった。

怒ったジークムントは身重の王妃を追放する。しかも、王妃の腹の子は自分の子ではないと思っているから、一緒に殺してしまえ、とまで言いだす。悲しむ王妃を森へ引き立てる2人の騎士。しかし、片方は、もう片方の罪を知っている。騎士たちは王妃の処分を巡って言い争い、その間に、王妃は男の子を出産して、絶望の中で息絶えた。
騎士たちは、さすがにかわいそうに思ったのか、生まれた子供まで手にかけることはせず、箱に入れて、川に流すことにした。
箱はやがて下流の河辺に流れ着く。泣いていた新生児を助けたのは、通りかかった雌の鹿だった。狼でも熊でもなく、「鹿」というのが珍しい。

ところで、その森には、ミーミルという鍛冶屋が住んでいた。(「ミーメ」になっている場合もある。ヴェルンド伝説に出てくる鍛冶屋と同じ名前) 鹿が人間の赤ん坊を育てているのを見つけたミーミルは、これを連れ帰り、シグルドと名づけ、自分の弟子にする。
だが、シグルド少年は生来とんでもない乱暴者で、鍛冶屋の仕事を覚えるどころか、道具を壊してばかりだった。力が強すぎて、始末に終えない。
そこでミーミルは彼を始末するために、わざと、竜のいる森に炭焼きに行かせた。自分では殺せないシグルドだが、竜が殺してくれるだろうと思ったのだ。

そんなことはつゆ知らないシグルドは、森につくなり、数日ぶんの食料をペロリ。ついでに、竜が出て来たので、これをサックリ殺して、ついでに食料にしてしまう。

【このあたりの展開は「エッダ」の「ファブニルの歌」と同じだが、こちらの竜にはファブニルという名前は存在しない。単なる森の住人のようである。だが、名前はなくとも、竜の血に宿る効能は同じ設定だったようだ。】 

竜の肉を焼き、焼け具合を確かめようとして指に火傷をしたシグルドは、思わず指を口につっこむ。指についた血を舐めたとたん、鳥の言葉が分かるようになる。
その言葉から、ミーミルが自分を殺そうとしていたことを知って激怒し、鳥の言うとおり体じゅうに竜の血を塗りつけて剣の通らない体となって師匠のもとへもどる。

【このとき肩の間には血がかからず、そこだけが生身の体のままになる。このエピソードは、「ファブニルの歌」など北欧系神話には登場せず、「ニーベルンゲンの歌」や「シドレクス・サガ」など南方系神話には登場している。】

弟子のシグルドが無事に戻って来たのを見て、ミーミルは、己の目論見が失敗したことを知る。
怒れるシグルドの機嫌を取ろうと、隠していた立派な剣(グラム)や鎧を取り出すミーミルだったが、それらを手にしたシグルドが最初にしたことは、剣を鍛えた鍛冶屋自身を真っ二つにすることだった。

こうして、師匠を殺害した乱暴者の若者は旅に出る。このあたりもエッダに共通する展開だ。

その途中、立派な馬をたくさん飼育しているという女城主のうわさを聞いた彼は、是非とも馬を一頭手に入れたいと思い、その城に乗り込むことにした。この女城主が、ブリュンヒルトである。

ヴァルキューレから養馬場を持つ女城主とは、ずいぶんな違いだが、とにもかくにも彼等はここでも出会う運命にある。
城門を蹴破って現われたシグルドを丁重に迎えたブリュンヒルトは、何も知らない彼に、「あなたは王の子なのだから歓迎されるのだ」と教え(何故知っているのかはナゾだが)、乞いに応じて、名馬グラニを与えた。

しかし、このとき、彼等の間にラブロマンスがあったとか、婚約したとか、そういう記述は無い。こちらのバージョンでは、シグルドとブリュンヒルトは単にすれ違うだけの存在のようだ。

旅は、さらに続く。
このあとシグルドはベルタンガという国のイーズンク王に仕えることになった。





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